一話一分で読めるshort小説
雪風
【織田信長がタイムスリップしてきた現代の会議室】
「それでは次の議題に入ります。来期の新規事業案について……」
窓際に座る企画部の田中が、手元の資料をめくりながら発言した。会議室には誰もが眠そうな顔。プレゼンのパワーポイントも、どこか既視感のあるグラフばかり。
そんなとき、突如、天井の蛍光灯がパチパチと音を立てた。
「……?」
部長が眉をひそめた瞬間、部屋の空気がぐっと重くなった。
バチンッ!
強い閃光とともに、会議室の一角に煙が立ちこめる。そして、その中から、あり得ない人物が現れた――。
「――ここはどこじゃ。城内ではないのか?」
甲冑に身を包み、獣のような眼をしたその男は、堂々と会議テーブルの中央に立った。
「な、なんだ!?」「コスプレ?警備呼べ!」
一同が騒然とするなか、彼はゆっくりと周囲を見回し、口を開いた。
「われこそは織田上総介信長。異国の術により、この奇天烈なる空間に飛ばされたようじゃ。」
田中が、おそるおそる訊いた。「も、もしかして……本物の、織田信長……ですか?」
「うむ、余が偽物であるものか。ところで、そなたらが“会議”とやらをしておったな。軍議と心得た。参じても構わぬか?」
止める間もなく、信長は空いた椅子に腰を下ろし、資料を手に取った。
「ふむ……“KPI”、とな。敵情を示す指標か。おお、よい。戦には必須じゃ。で、誰が総大将か?」
部長が口を開く。「あ、私がこのプロジェクトの責任者ですが……」
「では、そなたの策を述べよ。」
部長は戸惑いながら、練りに練った新規事業案を語った。だが、信長は首を横に振る。
「ぬるい。戦は時間との勝負。半年後に出す商品に期待してどうする?いま動かねば、機会は他家に奪われようぞ。」
「ですが、社内のリソースが……」
「足らぬなら作れ。人が足りぬなら、知恵で補え。そもそも敵――つまり競合の情報が浅い。地形も調べずに攻め入るとは、ただの無謀よ。」
部屋は静まり返った。誰もが言葉を失った。だが、彼の話には、不思議な説得力があった。現代の言葉は使えないが、核心はついていた。
田中がぽつりと口を開いた。「……じゃあ、どうすれば勝てるんですか?」
信長はにやりと笑った。
「敵より先に動く。驚かせる。常識を破る。これぞ“第六天魔王”の戦い方よ。」
彼はホワイトボードに向かい、マジックペンで図を描いた。市場の構造を“城”に見立て、顧客層を“民”に例え、競合を“敵将”と名付けた。
「まず、この市場で一番怠けておる敵を狙う。そやつを崩せば、他も芋づるよ。ついでに、我らの名を天下に轟かせよ。“広告”とやらが得意なのだろう?」
誰かが笑いそうになったが、すぐに真顔に戻った。気づけば、全員が彼の話を聞いていた。
それから三時間。会議は予定を大幅に超えて続いた。誰もが資料を破り捨て、新たな戦略を書き始めていた。
信長の戦術は、現代の経営論と奇妙に共鳴した。合理的で、容赦がなく、そして――面白かった。
最後に彼は立ち上がり、こう言った。
「この“会社”とやら、存外悪くない。もし天下が望めぬなら、次はこの世で“ナンバーワン企業”を狙うとするか。」
そして、会議室を後にしようとしたとき、再び閃光が走り、彼の姿はかき消えた。
残されたホワイトボードには、大きく一言――
「動かねば、勝機はない。」
それは、現代に甦った“魔王”の、最もシンプルな教訓だった。
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