桐生夜月の独占欲2
昼休み、教室の扉が静かに開いた。
立っていたのは生徒会長・鷹取だった。
その姿に気づいた優奈が、席から軽く身を起こす。
鷹取は微笑を浮かべながら、落ち着いた声で言った。
「芹沢さん。少しだけ、お時間をいただけるかしら?」
「お話ししたいことがあって、生徒会室に来ていただきたいのだけど」
その言い方はごく自然で、あたかも旧知の先輩が後輩を気遣って声をかけるような柔らかさがあった。
その直後、優奈の隣で本を閉じた美咲が言った。
「……優奈ちゃんになにか、問題でも?」
その声は一見冷静だったが、どこか警戒の色を含んでいる。
続けて、ひさめが明るい声で笑った。
「えー、優奈を借りるなんて、先輩ずるいなー」
もう1人、表情の薄い小柄が生徒が優奈の傍に座っているが、何も言わずこちらを見つめている。
優奈は彼女たちに微笑んで首を振る。
「ちょっとだけなら大丈夫」
そうして優奈は、鷹取のあとに続いて教室をあとにした。
背後では、美咲とひさめが笑顔を保ちながらも、
わずかに視線を交わす。
互いに、鷹取という存在を意識して。
「どうぞ、座って」
生徒会室には鷹取と副会長、それに優奈の三人しかいない。
緊張した様子の彼女を前に、鷹取は微笑んで見せた。
必要なのは“敵意がない”という姿勢だ。
副会長が丁寧な所作で湯を注ぎ、香り高いハーブティーを差し出す。
湯気が揺れるカップを手に取った鷹取は、優奈に目を向けて言った。
「副会長は、こう見えてお茶を淹れるのが得意なの」
「香りが穏やかで、落ち着くでしょう?」
優奈は「はい、すごくいい匂いですね」と小さく頷いた。
鷹取は一口飲んでから、カップを受け皿に戻しつつ話題を続ける。
「芹沢さんは、どんな飲み物が好き?」
「えっ、あ、私は……」
少し考えて、優奈は照れくさそうに笑った。
「ミルクティーが好きです。甘いの、ついつい選んじゃって」
「それ、なんだかわかる気がするわ、疲れた時は苦いよりも甘い方が心に効くもの」
鷹取は微笑みながらそう返した。
会話はゆるやかに流れ、優奈の表情もほんの少しだけ和らいでいた。
ここで鷹取は本題に入る。
「最近、何か変わったことはなかったかしら?」
静かに問いかける。
優奈は、少しだけ考える素振りを見せてから首を横に振った。
「特に何も……」
「いえ、少し変わったことはあった気もするけど……うまく説明できないです」
言葉の端に微かな含みがある。
だが、ここで踏み込んでも意味はない。
まだ、信頼は足りない。
「そう、なら良かったわ」
鷹取は穏やかに微笑んで話題を変えた。
中学校の話、部活の話、好きな給食メニュー。
そういった当たり障りのない日常会話で、緊張の糸をほどいていく。
その日は、何気ない会話だけで終わった。
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