18話 断罪の白き光

皇帝が広場に立ち、民衆を前にして静かに口を開いた。


「この国を永遠の冬に変えたのは、断罪の精霊である。我らすべてが、皇后リリスの姉であるセレナに対し、罪を重ねた。私は皇帝として、それをここに認め、語ろう――」


静寂の中、皇帝の声は広場に響いた。


「セレナを幽閉したのは、私の命令だった。

ここで、はっきりさせるべきは当時のセレナの罪であるが……セレナ自身に何の罪もなかったと言っておこう」


広場の民衆が一瞬ざわめいたが、皇帝は手を上げて話を続けた。


「あのときセレナは、祖国で拘束の魔法をかけられて、自ら行動することも、声を上げることもできなかったのだ。けれども、その事実は国民には知らされず、《我が国を謀った者》としてのみ知らしめられた」


「その結果、当時は国民も臣下も、セレナを処刑せよと声高に叫んでいた。しかし、私はリリスの気持ちを思い、処刑までするつもりはなかった」


「私は、周囲の声の煩わしさから、皇帝としての言葉の重みを考えず、ただ目に触れないように閉じ込め、静かにさせよと命じて放置した。その間、半年――

まさか、水も食事も与えず、苦しませて餓死させようと、家臣や侍女が目論んでいたとは思わなかった」


「しかし、セレナは生きて逃げ、断罪の精霊の力を得た。断罪の精霊は、私だけでなく、リリスも、そしてこの国全体を罪あるものと断じた」


皇帝の声明が終わると、広場に再びざわめきが広がった。


「……結局、悪いのは誰なんだ?」


誰かの声が、雪に閉ざされた空気の中に消えていく。

その疑問は町の広場のあちこちで繰り返され、瞬く間に広がっていった。


「私たちは命令に従っただけだ」「あれは貴族がやったことだ」「皇帝が決めたことだ」「リリス様だって、姉上のことなんて何も言わなかったじゃないか」


責任のなすりつけ合いが、冬の風のように人々の間を吹き抜けていく。

一部の貴族たちも、「民の声に押されて仕方なく……」と、どこか他人事のように言い訳を始めていた。


セレナは、誰もいなくなった城の鏡から映し出される映像を黙って見ていた。

自分の過ちを認めず、誰かに責任を押しつけて安心しようとする――

それが人間の弱さであり、ずるさなのだと、セレナは痛感していた。


そのとき、空気が変わった。

まるで見えない何かの意識が、この世界の隅々まで満ちていくようだった。


突然、広場の一角で男が膝をつき、苦しそうにうずくまった。

別の場所では、女が泣き崩れ、子どもが母親の手を強く握りしめていた。


誰もが「何か」に見られていると直感していた。天から、雷鳴の如く声が響いた。


『言い訳や責任転嫁は、罪の免罪符にはならない』


心の奥底に直接届くような、冷たい声だった。


『命令に従っただけでも、見て見ぬふりをしただけでも、それは罪だ』


精霊は告げた。


『セレナに対し、心に罪を持つ者よ――出でよ』


広場に、言葉では言い表せぬ静けさが満ちた。


その声とともに、白い光が民衆の中に降り注いだ。

一人の男が頭を抱え、倒れ込んだ。


「俺は知っていたんだ……従姉妹が侍女をしていて、塔に閉じ込めて、何も……何も与えていないと……あのとき、俺は……ざまぁみろと笑っていたんだ」


涙を流し、罪の記憶が幻のように浮かび上がる。

塔に幽閉され、寒さと飢えに苦しむセレナを、酒の肴にあざ笑った過去。


「身の程知らずの潘国の娘め」と嘲った女。

「見せしめにしろ」と叫んだ貴族。


ほとんどの貴族は、断罪の精霊のもとで、セレナに対する悪口雑言を白日の下にさらされた。


もしも逃げ出さなければ、セレナの幼さが残る美貌に、淫らな欲望を掻き立てられた貴族や騎士たちが、集団で慰み者にし、息絶えるまで辱めていたという――

そんな悍ましい計画までもが暴かれた。


セレナの苦しみを、あざ笑い、消費するように語った者たち。


精霊の光は、一つひとつ、心の奥に埋めた罪を白日の下にさらし、罪人の胸元に刻印を浮かび上がらせた。

その刻印は、ただの印ではなかった。


広場で罪を暴かれた者たちの胸元に、白い光が静かに灯る。

その光は、雪よりも冷たく、夜の闇よりも鋭かった。


人々がざわめく中、最初の異変は、膝をついた男性だった。

急に「腹が減った! 死にそうだ!」と叫ぶと、周囲を見渡し、とある女性の買い物カゴからパンをむんずと掴み取った。

だが、ひと噛みしただけで、吐き出してしまった。


同じように、異常な喉の渇きを訴えた女は、水を飲もうと喉に流し込んだ瞬間、激しくむせて、すべてを吐き出した。


どんなに腹が空いていても、どんなに喉が渇いていても――

刻印が光っている間、身体は一切の食べ物も水も受け付けなくなる。


「なぜ……なぜだ……!」


男は恐怖に顔を歪め、女は泣き叫ぶ。

刻印が胸元で淡く脈打つたび、彼らの身体は拒絶し、飢えと渇きだけが募っていく。




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