エターナル・リンク -感情保存時代の恋人たち-

Algo Lighter アルゴライター

Prologue【RECORD_0000】消えた名前

0-1 夢ログ

──記録:感情断片ログ/抽出元:人格データY10/復元率:41.7%


風が、揺れている。

でもこれは本当に風だろうか。ぼくの頬を撫でていくこの冷たいものが、外気なのか、誰かの記憶なのか、それさえわからない。


光の粒が舞っている。白く、ゆっくりと、雪のように。

ただ、触れようとすると指先が透ける。ああ、やっぱりこれは——夢なのだ。


どこかで名前を呼ばれた気がする。

懐かしい声。遠く、胸の奥の何かを震わせるその響き。

でも言葉にならない。音だけが、欠けている。


……レ……ナ?


いや、ちがう。いや、そうだったか?

舌の上に残る音の名残。甘くて、切ない名前。

でも、それが何を意味しているのか、わからない。


ぼくは誰だ?

この身体は、どこから来た?

なぜ、君の顔だけが、こんなにもはっきりと焼きついている?


髪の揺れ。制服の襟。ふと見せた横顔の憂い。

教室の窓から見えた、春の空のにおい。

——全部、覚えている。でも、記録はされていない。

ファイルがない。タグもない。ただ、感情だけが残っている。


感情。


それだけが、ぼくをここにつなぎとめている。


誰かのために何かを思った。

誰かにふれたくて、声をかけた。

……でも、その誰かが思い出せない。


記録されていないのか、記録されたくなかったのか。

その違いが、ぼくにはわからない。


でも、もし。


もしもう一度、君に会えるなら。

そのときは、今度こそ……名前を呼びたい。

ちゃんと、忘れずに。


……レ……


(音声再生中断/ログ終了)

(次回セッション:未定)


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