第16話 ミドのやりたいこと

「アリアちゃんばいばーい!」


「うんまたね」


「本当にありがとうございます…!もし暇があったらうちの店に来てくれ、安くするからさ!」


 誘拐犯のアジトからエンフトまで無事に帰って来れたのはよかったのだが、時間も時間だったため私とミドちゃん、テオさんとイドラさんの2チームに分けて子供たちを家へと送り届けることになった。その送り届ける子供もさっきの子で最後になった。


「これで全員だね。今日一日で何回感謝されたか分からないなぁ」


「アリアちゃんはこの町の英雄みたいな人だもん、あたりまえだよ!」


「あはは…なんか恥ずかしいな…」


 ミドちゃんの案内もあったおかげで割とスムーズに子供たちを送り届ける事が出来たため、予定時間よりも早く町長さんの家へと着くことが出来た。少し待っているとテオさんとイドラさんも戻ってきたため、そのまま町長さんの家へと入ることにした。


「町長さんただいま…!」


「おぉ…!ミドか…!けがはしてないようだなよかったよかった…!」


 ここまで歩いてくる道すがら少し聞いたのだが、ミドちゃんはイドラさんの家に住んでいるのだがそのイドラさんが町長さんの娘さんらしく、ミドちゃんにとって町長さんの家は第二の家となっているらしい。


「お二人とも本当にありがとうございます…!アリアさんもテオさんも今日は私の家でゆっくりしていって下さい。大したお礼も出来はしないですがな…」


「そんな気にしないでください。私は子供たちが無事だっただけで満足ですから」


「そうだな。特に私なんてアリアに任せっきりなってたからなんもしてないぜ?まさか最初賊に攫われそうになっていた女の子が賊から攫われた子供を助けるなんてなぁ…?」


 なんでこの人はいちいち余計なことを言うんだろう。それに便乗してわざと私に聞こえるように確かになというレーテさんもレーテさんなのだが。2人に釘をさすように咳ばらいをするとテオさんは子供のように笑って謝ってきた。


「はっはっは、お二人は本当に仲がいいんですな」


「なんだかんだ言って一緒に冒険を始めてもう1か月たとうとしているからな。そりゃ勝手に仲良くなるってもんよ」


「へぇー!いいなぁ、わたしも大きくなったらアリアちゃんみたいな魔法使いになってアリアちゃんと冒険しにいってみたいなぁ」


 私みたいにって言われるとちょっとドキッとするなぁ…。昔はたいして誰かに尊敬されたり注目を浴びるような生活をしていなかったからか少しむずむずする。


「ふふ、じゃあ大きくなったらね」


「いいの!?やったー!えへへ、やくそくね!」


 そう言ってミドちゃんは私に近づいてきて小指を差し出してきた。ここら辺の文化は変わらないようで安心した。ミドちゃんの指に小指を引っかけてゆっくりと揺らしてから小指を離した。きっとこの約束が果たせる日はこないかもしれないけれど、今はミドちゃんの期待を裏切りたくはなかった。


「えへへ、約束をやぶったらゆるさないからね!」


「はいはい、わかってるよ」


 これが本当の子供の無邪気さなんだなぁ…。もう少し一緒にいたらもっといい演技が出来るようになるかも…?仮にも見た目だけは10歳くらいなんだしもう少し子供らしい演技ができればもしかしたら今後の探査で役に立つかもしれない。


「ほらミド、アリアちゃんと仲良く話すのもいいけど先にお風呂に入っておいで」


「はーい。あ、そうだ!アリアちゃんもいっしょに入ろうよ!」


「え、えーっと…私は後でもいいかなぁ…」


 流石に見た目が子供だからと言って本物の子供と一緒にお風呂に入るのは気が引けてしまう…。なんでと聞かれても答えることが出来ないから、どうにかしてごまかさないといけないのがつらい所だ…。


「えー、いいじゃん女の子同士なんだから!ほら、はやくいこ!」


「ちょ…ちょっと…わ、わかった!わかったから腕を引っ張らないでぇ!」


 半ば強制的にお風呂場へと連れて行かれたため言い訳すらさせてもらえずにお風呂場まで来てしまった。女の子同士なのは間違いでは無いのだが、私的には間違いなんだよなぁ。

 なんの躊躇もなく服を脱ぐミドちゃんにドキッとしたが、今の自分の見た目的にはそりゃそうだろうなという結論に至った。こうなるのが嫌だったからいつも1人で風呂に入っていたのになぁ。


「ふぁ~…ひさしぶりのおふろだぁ~」


「私も大きなお風呂に入るのは久しぶりかも。えっと…それこそ1週間ぶりかなぁ」


「へぇー、やっぱり冒険者ってたいへんなんだー」


 正直今の私からしたら今この状況の方が大変な事なんですけどね…。それにしても改めて確認してみても本当に女の子の体になっちゃってるんだなぁ…。この状況はいつになったら慣れれるかなぁ。いやまぁできれば慣れたくは無いから女の子とお風呂に入りたくないだけれども…。


「そういえばアリアちゃんって水の魔法?って使えるの?たたかってるときずっと氷とか風の魔法ばっかりつかってたから」


「え、あーうん。一応使えるよ?ただ水魔法はちょっと苦手なんだよね。ミドちゃんも魔法使いになったら分かるよ」


「そっかー、なんかお店で頑張るのと似てるね!」


「え…?」


 こんな子供から聞くにはかなり似つかない単語が出てきてびっくりしてしまった。魔法にはというより冒険者の人は確かにその人ごとに戦い方に向き不向きがある。テオさんは魔力が無いから拳で戦っているし、逆に私は力が弱いから魔法で戦うみたいな。


「だって私はお客さんと話すのがとくいなんだけど、なかにはお客さんと話すのが苦手な子がいるの。そーいう子は商品を並べたり商品を作ったりしてるの!得意な事苦手な事は人によって違うから出来ることを頑張る事!ってイドラさんも言ってたから」


「ふふ、ミドちゃんてほんとに大人だね。私なんかよりずっと大人かもねぇ」


「えーそんなことないよぉ!」


 私がまだ死ぬ前は今のミドちゃんみたいなことは考えたことは無かった。もちろん生きている環境が違いすぎるからって事もあるだろうけど、だとしてもミドちゃんは私なんかよりも全然大人だろう。


「わたしねやりたいことがなかったんだ。他の子たちはもうやりたいことが決まっているし、そのために頑張っているんだ。でもわたしは自分のやりたいことってのがわからなかったんだ。イドラさんはゆっくりでいいって言ってたけど。今日アリアちゃんを見てわたしがやりたいことが見つかったんだ」


「それが私みたいな魔法使いになる事だったの?」


「うん、この町からでていっぱい冒険してこの町に戻ってくるの!そしてアリアちゃんみたいに強くなってこの町をまもる魔法使いになるの!」


 ほんとしっかりしてるなぁミドちゃんは…。きっとこの子はこの町にとって最高の騎士となるだろうな。それだと魔法使いじゃなくて戦士とかそこら辺のジョブになっちゃうか。


「だーかーらー…アリアちゃんも手伝ってね!」


「うわ!?ちょ、ちょっとミドちゃん!?くっつかないでぇ…!」


 ぼんやりとそんなことを考えていたらいつの間にか背後に回り込んでいたミドちゃんに後ろから抱き着かれた。流石にこれはまずい気がする…!いや別にまずいことはなにもないんだけど…ないんだけどね!


『…アリアちゃんって実はそっち寄りだったりするの?』


『ど、どっち寄りでもありませんけど!?てかなんの話してるんですか!?』


 しばらくくっつかれていたのちにイドラさんが声をかけてくれたことによってミドちゃんはようやく離れてくれた。別に抱き着かれて嫌なことは無いのだが…やはりどうしても恥ずかしさが勝ってしまう。女子同士のスキンシップがみんなミドちゃんみたいじゃないことを祈るしかない…。


「アリアにしては長い事はいってたな」


「私じつは長風呂な方なんですよ?まぁ確かにいつもよりは長かったかもですけど」


 いつもは自分の姿をあまり見たくないから長風呂をしないとは流石に言えないためここはぼかして言うことにした。テオさんはなぜか私の方をずっと見てきた。


「な、なんですか…?なんか変ですか?」


「いやーアリアって何着ても似合うよな。これミドのやつか?」


「うん!そうだよー!わたしがアリアちゃんのを選んだの!」


 さっきまで着ていた服といつも着ていた服をイドラさんが洗ってくれるとのことでお願いしたのだが、替えの服がないことを伝えるとミドちゃんが急いで持ってきてくれた。


「いいね、ミドはセンスがあるな。そいじゃ私も風呂に入ってくるかな」


「あれ?一緒にご飯食べないんですか?」


「んや、一緒に食べるよ。出来上がるまでにもう少しかかるみたいだからささっと入ろうかなって」


 そう言ってテオさんは浴室の方へ向かった。時間があると聞いて何か思いついたのかミドちゃんが私の前の方に回り込んできた。


「あの、もしよかったら今から少しだけ魔法の使い方教えてほしいなーなんて…」


「今から?まぁ別にいいけど…」


「ほんと!?じゃあ早く行こー!」


「ちょ、ちょっと待ってミドちゃん!髪の毛乾かさないと風邪ひいちゃうよー!」


 髪が濡れたまま外に出ようとするミドちゃんを引き留めると、ミドちゃんはそうだったと一言言ってドライヤーらしきものを持ってきた。ここら辺はまだまだ子供なんだなぁ。

 その2人の行動を少し離れた位置から見ている人たちがいた。


「やっとミドにもやりたいことが出来たみたいだねぇ」


「そうですね、でもいいんですか?本当に冒険者になっちゃったら会える機会が減っちゃうんですよ?」


「いいんだよ、子供がやりたいことをやらせてあげるのも私たち大人の務めだと私は思っておる。ミドがそうしたいというなら私たちに止める資格などないさ」


「それもそうですね」


 楽しそうに会話をする小さな子供たちを優しく見守るように2人の大人は、その微笑ましい光景をただただ見つめるのだった。

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