君は水泳という名の青春に飛び込めるか

柏木京介

水泳部の青春へ、ようこそ!【1年生編】

第1話「青春の始まり!」

「制服よし!髪型よし!忘れ物もなし!これで、大丈夫かな?」

鏡の前でそう独り言を呟いているのは、桜坂花蓮おうさかかれん

清流せいりゅう高校に通い始める生徒であり、今日は大事な始業式である為、鏡の前で睨めっこしながらかなりの時間が過ぎていた。

清流高校は、学力は普通、部活でこれといっていい成績を残してるわけでもないが、制服が可愛らしいのと家から通える高校がここしかなかったのでここを選んだだけである、特に深い意味はない。

共学な高校であるはずなのに、男子よりも女子が多い学校であるため、周りの学校や生徒からは『半分女子校』なんて呼ばれていたりする。

それに比例してか、男子と女子が混ざる部活では部長や副部長に選ばれるのが、女子になってしまうのは仕方がないと言えるが、男子は肩身が狭そうだ。

「確認は済んだし、もうそろそろ行こうかな」

高校生になれる嬉しさ半分、不安が半分の気持ちを抱きながら、自分の部屋の扉を開けた。


家から自転車でかなりの時間を漕いで、やっとこ清流高校の門が見えてきて、ホッと息をつく。

『結構、思ったより家から遠いなぁ…勉強はあまり得意ではなかったし、何より制服が可愛いのが魅力的ではあるんだけど…これを毎日するのは結構疲れそう…』

心の中でしんどいことを愚痴ってしまうが、自分で選んだ道だ、と心を入れ替えた。

門の近くまできて、自転車を降りる、すると、部活の勧誘だろうか、ユニフォームを着てプラカードを掲げる者、チラシを配る者などの先輩方が沢山おり、運動部、文化部など多種多様な部活が勢揃いしている。

無視するのは大変失礼なので、チラシを貰いつつ先輩方からの話は半分、聞き流していた時に、中学時代に所属していた、部活のプラカードが目に入ってしまった。

『水泳部、入部者募集中!初心者の方も大歓迎!』

と書かれていたのを見て、思わず「初心者の方も大歓迎!」と書いてあることに対して、こうツッコんでしまう。

「初心者が簡単にできるほど、水泳は甘くないでしょ」

そう、ぼそっと呟いた。

元水泳部であり、泳ぐことの難しさを知っているし、中学時代の部活で初心者の後輩に教えることもあったが覚えるかなりの時間を要したのをいまだに覚えているからだ。

『でも、初心者の人が高校生からやる人はいないでしょ、普通は』

中学生から同じ部活に入る人が殆どであり、わざわざ高校に入ってまで違う部活に入ってやるとは考えられなかったからで、同じ部活に入れば、体も感覚も覚えているし、大会にもすぐに出れることだろうと思ったけども、桜坂花蓮は水泳部には入りたくないと思った。

中学時代に、努力を怠った自分のせいで肝心な3年生の時に大会出場メンバーに選ばれずに新入生が選ばれ、桜坂花蓮の中学生の水泳はそこで終わりを告げたのだ。

また、入って同じ道を辿るかもしれないのならいっそ、部活をしないのもいいかなと漠然と考える。

部活に入らないならいっそ『普通の青春を送ってみたい』とも思ってしまう。

誰かに恋をしたり、友達と帰りに買い食いをしたり、アルバイトをしてお金を稼いでみたり、と中学生の時では味わえない、青春が高校生には待っている。

『青春とは何か?』なんて人によっては定義は様々だが、桜坂花蓮が考えてることも理想の1ページではある。しかし、それは理想でしかない。

青春とは、中学時代を含めれば、たったの6年間しかない、小学生と同じ時間しか与えてくれない。

その6年間で何を得られるのか?、というのは果たして、この青春を謳歌している時には気づきはしない。

先生の言葉も、親の言葉も耳から抜け落ちていくだけなのだ。

それに気がつく時はいつなのか?と言えば、それは大人になった時であり、卒業して10年後、20年後に大人になって再会した時に『思い出』として振り返りながら話ができる。

そして、同時に気が付く、先生や親の言葉は大人になった時に苦労しないように言ってくれた言葉なのだと。

つまり青春とは『大人になった時に、ふと振り返った時に思い出として思い出せるもの』それが青春だ。

桜坂花蓮の青春が思い出したいものになるか、それとも、忘れたいものになるか、それは、彼女の選択次第だ。

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