002 ガン・ドゥームで初実戦
あなたは持ち帰ったガン・ドゥームの性能を調べている。
ガン・ドゥームの性能は奇械兵に関して素人であるあなたから見ても凄いとしか言い様がなかった。パワーとスピードはジムザックなど比較にならないくらいある。装甲に関しては実際に攻撃を受けて確かめたわけではないがかなり硬い。エンジン出力は通常の5倍以上だった。それ以外の性能もあなたがスマフォンで調べた限りでは既存の奇械兵を上回っているようだ。
武装はなんとビーム兵器を標準装備していた。ビーム兵器は珍しい武器であり手に入れようとしてもなかなか手に入らない代物だ。その性能は既存の武器よりも優れている面が多い。戦うのなら大きなアドバンテージになるだろう。
ガン・ドゥームに搭載されたユニークシステムは【Cシステム】というらしい。CはクリエーションのCである。実験したらCシステムは名前の通り万物を創造出来る能力だということが判明した。試しにガン・ドゥームが装備しているビームライフルを作ってみたがあっさりと出来た。凄まじいユニークシステムだ。Cシステムを発動させるには動かずにエネルギーをチャージする必要があるため戦闘向けのユニークシステムではないが下手をしなくても世界がガラリと変わってしまう性能をしている。あなたはCシステムについては秘密にしようと思った。
ちなみにガン・ドゥームを作ろうとしたらCシステムがまだ出来ないと回答した。ユニークシステムは奇械兵が戦闘で経験を積めば成長することがあるらしいのでCシステムも成長すればいつかはガン・ドゥームを作れるようになるのかもしれない。その時が楽しみだとあなたは思った。
どうでもいいがあなたはスマフォンでスレッドを立ててガン・ドゥームの写真を貼り付けた。そしてスレッドに立ち寄った奇械兵乗り達の反応を見てみた。結果はみんな否定的だった。激レア奇械兵でしかも類を見ないユニークシステム持ち。そんな凄い奇械兵を貴族の子供が神から貰ったなど話を盛り過ぎであり嘘を言うなというのが大多数の意見だった。あなたは憤った。
―――1週間後―――
あなたがガン・ドゥームを手に入れてから1週間が経った。あなたはガン・ドゥームを乗りこなすために町の外で訓練をしている。まだ1週間しか訓練をしていない奇械兵乗りの卵なあなただが短期間でメキメキと操縦の腕を上げていた。エル・AⅢ・カイマンという肉体はまるで水を吸うスポンジみたいだった。すぐに覚えてしまうのはエルがまだ子供だからなのかそれとも天才の部類だからなのかはあなたには分からない。
「流石ですエル様。この短期間でここまで奇械兵を扱えるようなるとは……」
ガン・ドゥームから降りて休憩中のあなたに称賛の言葉をかけたのは執事のフレッドだ。フレッドは執事だが奇械兵の扱いがカイマン家の中でもかなり上手い。なのであなたの教育係兼護衛として一緒に町の外で行動している。そんな手練れなフレッドが奇械兵に乗って周囲を警戒しているのであなたも安心しきっていた。
フレッドの乗っている奇械兵は【イフリード】という。近接戦闘が得意な奇械兵で外見は両肩にスパイクが付いており頭部はモノアイになっている。フレッドのイフリードはショットガンを装備しており腰にはハチェットをマウントしている。本気で戦う際には全身に銃と弾薬をドッサリと取り付けるらしい。フレッドは冗談ですと言っていたがあなたは半分くらい本当のことだろうと信じている。
あなたがフレッドと戦えば今のところ勝率は五分と言ったところだ。それもガン・ドゥームの性能でゴリ押ししてどうにかという有り様であった。つまりあなたは技量ではまだフレッドに勝てない。しかしこのまま成長を続ければ追い抜く日は近いとあなたは確信していた。
「エル様はきっと奇械兵のパイロットとして大成するでしょう。旦那様と奥様もお喜びに……む、これは」
フレッドの声色が変わった。明らかに警戒している。あなたは休憩を止めてガン・ドゥームに乗り込んだ。奇械兵は全て胸の装甲が展開してそこからパイロットを量子化して取り込むようになっている。なので奇械兵の内部にはコックピットというものが存在しない。もし奇械兵が破壊された場合は安全装置が作動してパイロットがその場に放り出されることになる。
あなたがガン・ドゥームに乗り込むと通信が入ってきた。通信はオープンチャンネルだ。通信主は余程焦っているらしい。何度も同じ事を繰り返して言っていた。
「こちらはアルフィード王国第5近衛騎士団! 現在敵から攻撃を受けている! 近くの奇械兵乗りは至急救援を願う! こちらの現在位置はカイマンから南西100km! 繰り返す! カイマンから南西100kmだ! こちらの位置情報は常に発信しているぞ!」
あなたは不思議に思った。近衛騎士と言えば精鋭中の精鋭である。そんな近衛騎士がなりふり構わず救援を求めるとは何事なのか。あなたは興味を抱いた。
「南西……反対方向か。ここからでは間に合わん」
フレッドの呟きが通信越しに聞こえた。確かにフレッドのイフリードでは間に合わないかもしれない。しかしあなたのガン・ドゥームならば余裕で間に合うはずだ。何故ならガン・ドゥームは数ある奇械兵の中でも珍しい長距離飛行能力が備わった奇械兵なのだ。だから多少の距離など関係無かった。
あなたとしてはフレッドとの模擬戦で付いた実力がどの程度なのか知りたかった。これは良い機会なのかもしれない。なのであなたはブースターから爆炎を吹かせて空に飛び上がった。もちろんフレッドには行ってきますと言った。
「エル様!?」
驚くフレッドを置き去りにしてあなたは空を真っ直ぐに飛んだ。ガン・ドゥームの加速力は凄まじい。景色がどんどん後ろへと流れていく。あなたは前世で戦闘機に乗ったことはないが乗ればこんな感じだったのかなと思った。
「くっ! このままでは……!」
「誰でもいい! 援護してくれ!」
「こっちも手が足りていない! 持ち堪えろ!」
あなたがどうでもいいことを考えていたら通信を拾った。通信は短距離で行われているようだ。つまりあなたは戦場に到着した。あなたは速すぎるガン・ドゥームの性能に舌を巻いた。
戦場では白に塗装された奇械兵の集団とモンスターの群れが戦っている。モンスターは数の暴力で圧殺しようとしているのに対して奇械兵の集団は扇状に陣を組んで防戦していた。どうやら奇械兵側は組んだ陣の後ろにいる自動車を守りながら戦っているようだ。
戦況はあなたから見ても奇械兵側が劣勢だ。戦力差は数だけ見れば数倍はあるように見える。辛うじて戦いが成り立っているのは奇械兵の集団が実力者揃いの近衛騎士だからだろう。
モンスターの中には飛行する個体も混ざっており逃げるのは難しそうだ。だから近衛騎士の乗った奇械兵の集団は戦う選択をしているのだとあなたは分析した。
このままではモンスターの蹂躙を許すことになってしまう。せっかく助けに来たのに死なれては目覚めも悪い。なのであなたはモンスターへ攻撃を開始した。
まず空を飛んでいるモンスターをガン・ドゥームの両手に装備した2丁のビームライフルで撃ち落としていった。あなたの奇襲にモンスターの群れは混乱していくが空を飛ぶモンスターの中にはあなたへ反撃しようと向かってくる個体もいた。あなたは立ち向かってくるモンスターを優先的に排除していった。逃げるモンスターを追い回すよりその方が効率が良かった。
空を飛んでいるモンスターは大半が魔法の力で浮いている。しかし翼を利用して上昇や旋回をしているモンスターに比べて大出力のブースターによる3次元機動を行えるガン・ドゥームの方が機動力は断然上だった。あなたはすぐに空中戦闘に慣れていき空にいたモンスターのほとんどが駆逐された。僅か数分の出来事である。
飛んでいたモンスターが片付いたらあなたはガン・ドゥームを着地させて今度は地上のモンスターに向けてビームライフルを撃った。ガン・ドゥームのビームライフルはモンスターの上半身を簡単に消し飛ばしていく。あなたの登場で戦場の流れが変わった。もちろん奇械兵側に有利な流れである。
「救援に来てくれたか! 誰かは分からんが感謝する!」
近衛騎士の1人が通信であなたに感謝の言葉を述べた。あなたは気にしなくていいですよと返した。通信の際は少々馴れ馴れしい言葉使いだったがあなたはA級貴族である。多少の無礼は許されるだろう。
「なに!? 子供だと!?」
近衛騎士はあなたと通信回線を繋いでびっくりしている。あなたも戦場で援軍が来たとしてそれが子供だったら驚く。だから相手の反応に対してあなたは気にしなかった。
あなたはビームライフルを異空間に仕舞うと背中のビームサーベルを抜いて起動させた。あなたは自分の腕試しに来たのだ。このままビームライフルを乱射してモンスターを血祭りにあげてもいいのだがあなたとしてはフレッドに教わった近接戦闘がどの程度使えるようになっているのかが気になっていた。もしモンスターに苦戦するようなら即ビームライフルで引き撃ちに徹する所存ではあるが。
「ビーム兵器だと!?」
「見たことの無い奇械兵だぞ!? カスタム機か!?」
「なんだろうと関係無い! いくぞ! 反撃だ!」
近衛騎士達は驚いているが好機を無駄にせずモンスターをどんどん倒している。あなたも近衛騎士に遅れまいとガン・ドゥームを加速させた。
ガン・ドゥームのビームサーベルの切れ味は抜群だ。モンスターをバターのように切り裂いていく。モンスターの中には奇械兵並みのサイズの人型もいた。それらは鹵獲したのか奇械兵の武装を装備していた。だがビーム兵器の前には無意味だった。盾はあっさりと貫かれ、剣や棍棒はばっさりと切り捨てられる。モンスターにはガン・ドゥームの攻撃を防ぐ術が無いのだ。これでは戦いにならない。ただの蹂躙である。
あなたと近衛騎士達の攻撃でモンスターの群れはどんどん数を減らしていった。あなたの参戦で完全にモンスター達は勝ち目が無くなっていた。もしモンスターの群れに指揮官がいたら状況は変わっていたかもしれないがモンスター側は烏合の衆だった。
「やったぞ! 我々の勝利だ!」
近衛騎士の乗る奇械兵が手にした剣を突き上げて勝利を宣言した。あなたもその通りだと思った。何故ならモンスターの群れが散り散りになって敗走したからだ。あなた達の勝利である。近衛騎士達からすれば大逆転勝利である。
「助力に感謝する。貴殿はカイマンからやって来たのか?」
戦いが終わるとあなたの側に1機の奇械兵が近づいてきた。奇械兵の頭部には特徴的なトサカのような装飾が付いていた。あなたはそれが隊長機の特徴であることを知っている。あなたは自分がカイマン家の子供のエル・AⅢ・カイマンだと伝えた。
「っ! 失礼しました。AⅢ貴族とは知らず……」
隊長が急に畏まった。あなたはA級貴族だが正確にはA級の中の第3位の身分ということになる。貴族はA級、B級、C級と別れておりそこから更にⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの5段階に分けられている。カイマン家は貴族の中でも上澄みなのだ。
あなたは必要以上に畏まる必要は無いですよと言った。もちろんこの言葉を真に受けてタメ口で喋り始めるような人物が近衛騎士など勤めてはいないだろう。だがあなたの言葉で相手はある程度緊張は和らいだようだ。
あなたはどうしてこんな所に近衛騎士がいるのか聞いてみた。近衛騎士は高貴な方々の護衛中とだけ答えた。そんな近衛騎士の答えであなたはピンときた。あなたの想像通りなら自動車に乗っている者は近衛騎士の言葉通りである。あなたから見て格上の高貴な身分というのは本当に一握りだった。あなたは下手に触れない方がいいなと判断した。
「我々は補給のためカイマンへ向かいます。此の度は救援に馳せ参じていただきありがとうございました」
近衛騎士達はあなたの実家があるカイマンまで行くそうだ。あなたはそれなら暫くの間護衛しますよと近衛騎士に言った。それを聞いた近衛騎士は渋っていた。A級貴族であるあなたを働かせるのは躊躇われるがガン・ドゥームの力を見てしまったからには護衛対象の安全を確保するという点ではぜひ同行してほしいのだろう。そういう葛藤をあなたは相手から感じた。
「……申し出は大変ありがたいのですがカイマンまでは我々だけで向かいます。エル様は先にお戻りください」
最終的にはあなたの同行は拒否された。あなたとしてはどっちでも良かったのでそうですかと言った。
あなたは別れの挨拶をしてから再び空を飛びフレッドの所まで戻った。フレッドは心配していた。だがあなたの顔を見て安心したのだろう。フレッドは涙を流してあなたの無事を喜んだ。そしてそれが済むと延々とあなたはフレッドに怒られた。人助けしてきたのに怒られるとはどういうことか。あなたはこの世の理不尽さに憤った。
―――3日後―――
カイマン家は慌ただしかった。何故ならあなたが助けた高貴な方々がお礼を言うためにやって来るらしいのだ。
カイマン家はA級貴族であり誰が相手だろうと歓迎する術は持っている。しかし話が急だったため準備が出来ていないのだ。あなたもいきなり出迎えの準備しておくようにとか言われたらいくらなんでも無茶だろとは思う。
それでもどうにか歓迎の準備を終わらせたあなたと両親は指定された時間になるまで相手を待った。相手は時間通りにやって来た。屋敷の前で自動車が止まり後部座席のドアが開く。そして自動車から3人の少女が降りてきた。あなたは彼女達の顔を見てどこかで見たことがあるような気がした。
「殿下、本日はカイマン家へお越しくださりありがとうございます。アスクル家とアンス家の御令嬢方もお越しくださりありがとうございます」
オットーが畏まった口調で少女達に話しかけた。あなたはエルの記憶から目の前の少女達が何者なのかようやく分かった。あなたが3人の少女に既視感があったのはかつて王族主催のパーティーで見たことがあったからである。
真ん中に立っている少女はクリスティナ・AⅠ・アルフィード。アルフィード王国の第3王女である。腰まで伸ばしたストレートな髪は金色てあり太陽の光を浴びてキラキラ輝いておりサファイアのような青目にシミ1つ無い白い肌をしている。
右側に立っているのはミリア・AⅡ・アスクル。あなたと同じA級貴族だがアスクル家はAⅡでありカイマン家よりも格上だ。ピンク色の髪をショートボブにしておりこの少女もクリスティナと同じく青い目をしている。
左側に立っているのはエリーナ・AⅡ・アンス。茶髪をお姫様カットしており3人の少女の中では一番背が高い。顔にそばかすがあるがそれでも彼女の美は損なわれていない。ちなみに彼女もあなたより格上の貴族である。
「カイマン様。本日は無理を言ってしまい申し訳ありません。ですがどうしても私達はあの窮地を救ってくれた勇士にお礼を言いたかったのです」
クリスティナは申し訳ないと頭を下げている。だが王族がそんな言動をしたら良くないのはあなたでも分かる。オットーも内心焦っていた。少女達を護衛している近衛騎士達も渋い顔をしていた。あなたは空気の読める男である。なのでここはあなたが空気を変えるべきだろうと考えて少女達の前に出て挨拶した。
「まあ! あなたがあの奇械兵のパイロットなのですか!」
「私達と同じくらいの歳じゃん……」
「わぁ……可愛いですぅ」
3人の少女はあなたをまじまじと見ている。あなたはロリコンではないが可愛い女の子に間近に迫られると何故かドキドキしてしまう。あなたの顔はいつの間にか赤くなっていた。そんな赤面しているあなたを見て3人の少女達はクスクスと微笑むのだった。
「殿下。立ち話はこれくらいにしましょう。歓迎の準備は整っておりますのでエルとの会話は中でごゆっくりどうぞ」
キャッキャウフフと弄ばれていたあなたにマーサが気を利かせて助け舟を出してくれた。本来は当主であるオットーを差し置いてマーサが口を挟むのはマナー違反かもしれないがこの場でそれを気にする者はいなかった。
あなたとクリスティナ、ミリア、エリーナは今回の件で仲良くなれた。歳が近いことも仲良くなれた要因の1つだろう。あなた達はスマフォンのアドレスを交換したのでこれからはいつでも連絡ができる。王族と最上位クラスの貴族が簡単にスマフォンのアドレスを教えていいのかという疑問はあるがこれも仲良くなった結果だろうとあなたは考えた。あなたは今後も彼女達と仲良く出来たらいいなと思った。
余談だが3人娘の訪問から数日経ったら国王の署名入りの感謝状が家に届いた。オットーとマーサは大喜びだった。両親はお高い額縁に感謝状を入れて飾るようだ。あなたは100年もすればお宝になるかもしれない感謝状を見ながら前世でよく見た鑑定番組を思い出していた。
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