44. 白石のウザさと可愛さはバランスが重要だと感じる今日この頃

44. 白石のウザさと可愛さはバランスが重要だと感じる今日この頃




 相も変わらず、オレの部屋は白石の存在によって賑やかだ。今日は、最近白石がハマっているらしい、新しい格闘ゲームを二人でやっている。画面の中では、カラフルなキャラクターたちが激しい技を繰り出し、派手なエフェクトと共にぶつかり合っている。


 しかし、白石は驚くほどゲームが下手だ。複雑なコマンドは出せないし防御もほとんどしない。ただボタンを連打しているだけといった様子だ。なぜにこんなに一緒にやりたいのか全く理解できない。


「やん。ダメ!先輩!」


 白石の操作するキャラクターが、オレの攻撃を受けて吹き飛ぶ。その度に、白石からどこか含みのある声が飛んでくる。


「……。」


「ああ~ん。お願い!下ばかりやめてください!ああ~」


「やめろ!ただの格闘ゲームで、卑猥なんだよ発言が!」


 思わずそう叫んだ。普通の格闘ゲームで、なぜこんなに卑猥なやり取りをしなければならないんだ。


「だって~先輩が下ばかり狙うから!」


「じゃあガードすればいいだろうが?」


「むぅ……先輩。 教えてくださいよ!私も先輩に勝ちたいです!」


 白石はオレの言葉に不満そうにしながらも、勝負にはこだわりがあるらしい。悔しそうに教えろと頼んできた。


「わかったよ。 白石も可哀想だしな」


 ここまで下手だと、少しだけ可哀想に思えてきた。それに、教えてやれば少しは静かになるかもしれない。


「まず、この十字キーを……」


 オレが、基本的な操作方法を教えようと、白石の持っているコントローラーを指差した時だった。


「先輩。 それじゃわからないですよ~。 こう、後ろからコントローラー持って動かしてください!」


 白石は、オレの言葉を遮って信じられない要求をしてきた。後ろからコントローラーを持って動かす?それはつまり、オレが白石の後ろに回って、こいつの体に密着した状態で手に重ねるようにしてコントローラーを操作するということか?


「はぁ!?」


「ほらほら!教えてくれるんですよね?私可哀想なんでしょ?」


 白石は、オレの動揺を無視してさらに畳み掛けてくる。その可哀想という言葉を都合良く使ってくる。うぜぇ……こいつ。人の善意をなんだと思っているんだ。


 結局、白石の押しに負けて、オレは白石が座っているソファーの後ろに回り込んだ。そして、白石の手に重ねるようにしてコントローラーを持つ。


 くそっ……白石の、あの甘い匂いがするんだよ。髪からか、シャンプーか石鹸か。そして、背中に当たる白石の体の柔らかい感触。あまりの密着度に心臓がドクドクと音を立て始めた。落ち着け……落ち着くんだ……これは、ゲームの操作を教えているだけだ。それ以外の意味は何もない。


「あの先輩。すごくドキドキしてるの背中に感じるんですけど?」


「おまっ!振り向くなよ!顔近いだろ!コントローラーと画面に集中しろよ、お前は!」


 慌ててそう叫んだ。この密着した状態で振り向かれたらどうなるか分かったもんじゃない。


「わかってますよ~そんなに怒らなくても先輩が悪いのに」


 白石は、まるでオレのパニックを面白がっているようだ。そして、なぜかオレが悪いと言う。なぜだ?オレはただお前の要求に応えているだけだろうが。


「あの先輩。そんなにドキドキするなら、私のこと襲っちゃえばよくないですか?こんなに密着してるのに」


 襲う?なんだその発想は。何を言っているんだこいつは!真面目に教えてやろうとしているオレの気持ちも知らないで!なんだこいつ……面倒くせぇ。


 そのあと、しばらくオレは白石に操作を教えてあげた。後ろからコントローラーを持つ手を動かし、技のコマンドやガードのタイミングなどを教える。白石は、最初こそぎこちなかったが、少しずつ言われた通りに動かせるようになってきた。


「こんなもんか?」


「ふっふっふ。先輩、遊びはおしまいです。さぁ勝負です!」


「はいはい」


 オレは、いつものように適当に返事をして、対戦モードを開始した。先ほど教えた操作を白石がどれだけ出来ているか。しかし、結果は……


「あっ!ちょっ!え?待ってくださいよ!ああ~ん。負けたぁ……」


「まだまだだな」


「いや、今ちょっとミスっただけですし、ここから逆転しますんで!もう1回やりましょ先輩!」


 白石は、負けたのが信じられないのか、あるいは単に負けず嫌いなのか、すぐに言い訳をして再戦を挑んできた。しかし何度やっても結果は変わらなかった。オレが勝ち続け白石は負け続けた。でも対戦中の白石は真剣な顔をしたり悔しがったり、そして時折、楽しそうな顔をしていた。


 ゲームに熱中して楽しんでいる顔を見ていると、なんだかこの面倒な時間に付き合ったのも、まあ良かったかなと思えてくるのだった。


 オレの後ろからコントローラーを操作しろ、なんて、とんでもないことを言い出す奴だが、そのおかげで、白石の意外な可愛さを見たり、彼女の楽しそうな顔を見たりすることができた。


 そして、その顔を見ていると、彼女のウザさも少しだけ許せるような気がするのだ。この奇妙な感情のバランスの上で、オレと白石の関係は成り立っているのかもしれない。

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