28. 現実とフィクションの狭間のような奇妙な状況に放り込まれるのは何故なんだ?
28. 現実とフィクションの狭間のような奇妙な状況に放り込まれるのは何故なんだ?
オレの部屋は今日も白石によって、いつもと違う空気に満たされていた。特に何かを約束していたわけではないが、学校が終わり家に帰宅すれば当然のように部屋に来る。もう、そういうものなのだ。
「ねぇ先輩、見てくださいよ!けん玉!」
白石がどこから取り出したのか、唐突に木製のけん玉をオレに見せてきた。その意外なアイテムに思わず目を見張る。
「なんでそんなの持ってんだよ?」
「部屋にあったんですよ。間違えておじいちゃんの持って来ちゃったんです! 私、こう見えて得意なんですよ? ほらっ!」
白石は得意げな顔をしてけん玉を始めた。ヒュンと紐が鳴り、玉が宙を舞う。そしてカチリと小皿に見事に収まる。へぇ、意外とやるもんだな。関心して見ていると、白石は続けて大皿、剣先と技を決めていく。その度に、体をひねったり、しゃがんだりするのだが……
……動く度にスカートが捲れてんだよ……ってか、思いっきりパンツ見えてるし……マズいと分かっていつつも、視線がそちらに行ってしまう。これは男の性なので仕方ない。今日はピンクのシンプルなやつか。
「ん? ちょっとどこ見てるんですか? いやーん。先輩のエッチ」
白石がピタリと動きを止め、オレの視線の先に気づいたらしい。意地の悪い笑みを浮かべてそう言った。
「お前が見ろって言ったんだろ!」
「私が言ったのはけん玉ですよ。そんなに見たいならベッド行きますか?」
「黙れ。そもそもその格好が悪いんだ!不可抗力だろ?こっちだって白石のパンツなんか見たくもないって!」
慌てて否定する。見ていたのは事実だが、お前がわざわざ見せつけるような動きをしたからだろうが。そして、オレに変態のレッテルを貼るな。
「先輩。その割には顔赤いですけど?」
白石は、オレの必死な様子を面白そうに観察している。鏡を見なくても顔が熱くなっているのが分かる。
「うるさい。黙れ」
「ふ~ん。まあいいですよ、私たち付き合ってますし!」
白石はまたしてもこの状況を「付き合っている」という前提で片付けようとする。本当にこの言葉を聞くたびに力が抜ける。
「付き合ってはいない」
反射的に訂正したが、もう彼女には届いていないだろう。白石はけん玉を横に置くと、次にどこに隠していたのか大きな箱を取り出した。
「じゃあ先輩。次はこれやりましょうよ!」
そう言って、ドデン、とテーブルの上に置かれたのは、『人生ゲーム』の箱だった。
なんでそんなに色々なものを持ってくるんだよこいつ……
「テレビゲームは下手ですけど、人生ゲームなら負けませんから!私強いので!」
「人生ゲームに強いとか弱いとかあんのかよ。運任せのゲームだろうが。まあいいや、お前先でいいからルーレット回せよ」
オレは、テーブルの真ん中に置かれたカラフルな人生ゲームの盤面を見つめた。まさか白石と人生ゲームをやることになるなんて。想像もしていなかった。
白石は嬉しそうにルーレットを回した。「カチカチカチ……」と軽快な音が響き針が止まる。職業カードを選びコマを動かす。意外とこういうアナログなゲームも悪くない。白石が次にどこに止まるか、どんなイベントが起こるかを見ているのは、なんだか新鮮だった。
しばらく、二人で人生ゲームを続けていく。就職、結婚、家購入、そして子供が生まれるマス。白石がオレの車のコマに乗せられた子供のピンを見て吹き出した。
「え?ちょっと先輩……どんだけ子供作るんですか?車に乗れてないですよ?」
オレの車のコマには、すでにプラスチック製の小さな子供のピンが4つも乗っていた。まだゲームは中盤なのに妙に子沢山だ。
「いやいや。仕方ねぇだろ?そういうマスにしか止まらないんだから!」
「本当ですかぁ?狙ってません?」
白石は疑わしそうな含みのある顔をしてオレを見た。なんだよその顔は。何を疑ってるんだ。ゲームだぞこれ。
「それに、求められるのはいいですけど……私そんなに産めないですよ~もしかして将来は野球チーム作れるくらい子供欲しいとか……?もう!私のこと好きすぎですよ先輩!」
「これは人生ゲームだからな!?うぜぇ。もうやめるぞ?」
これはゲームだ!変な妄想するな!オレは慌てて突っ込み、ゲーム盤から手を離そうとした。
「わ~、待ってくださいよ~!私も先輩みたいに子供欲しいです!」
「変な風に言うのやめろよ!」
こいつと一緒にいると常にこういう、現実とフィクション、真面目と不真面目の狭間のような奇妙な状況に放り込まれるのは何故なんだ?
……結局この日、オレはずっと白石につき合わされ、延々と人生ゲームをやり続けた。白石は負けず嫌いなのか、あるいは単に楽しかったのか、何度も「もう一回!」と言ってきた。そして何回やっても、オレのコマだけは妙な引力でもあるのかやたらと子供が生まれるマスにばかり止まり、ゴールする頃にはいつも車から子供が溢れかえっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます