26. こんなに色々なことが裏目に出るのは、きっとオレくらいじゃないか?
26. こんなに色々なことが裏目に出るのは、きっとオレくらいじゃないか?
今日から始まる週末は少し違った。もうすぐ中間テスト。オレはもちろん、白石もさすがに少しは危機感があるらしい。朝早くに来て、一緒にテスト勉強をすることになっていた。
白石はソファーに座り、珍しく参考書とノートを開いている。カリカリとペンが紙を擦る音だけが部屋に響く。たまに小さく唸り声が聞こえる程度で、普段の騒がしさが嘘のようだ。この静けさ本当に助かるな。集中できる。オレも問題集を解き始めた。テスト範囲は広い。少しでも進めておきたい。
数十分ほど経った頃だろうか、白石がペンを置いて、こちらを振り向いた気配がした。そして、いつもの人をからかう時の声色になった。
「ねぇ先輩って何の教科が好きですか?保健ですか?私の身体しか見てないですもんね?」
……来たか。静けさは長くは続かない。予想通りのくだらない、そして少し危険な質問だ。
「………。」
オレは何も答えない。答えるだけ無駄だし、変に拾うと面倒な方向に話が進むだけだ。白石は放っておいてこの貴重な静かな時間を利用して勉強しないと。
「無視しないでくださいよ~それとも頭の中で想像しちゃいましたか?」
そう言いながら白石はオレに近づいてきて、肘をツンツンと指で突いてくる。やめろ気が散る。
「うるさい。邪魔するなら帰れ。勉強できないだろうが」
オレは白石の手を軽く払いのけ、再び問題集に目を戻した。テスト前なんだ。遊んでいる暇はない。
「あぁん。そんなこと言わずに、私にも構ってくださいよ~。寂しいじゃないですか~。私、彼女なんですよ?」
白石の声は拗ねたような、それでいてどこか甘えるような響きがある。そしてまたその言葉だ「私、彼女なんですよ?」もう聞き飽きた。
「だから彼女じゃねぇだろ。お前もテスト勉強しろよ? 補習とかになると、しばらく遊べなくなるぞ?」
「私は頭がいいので大丈夫ですよ!」
白石は、フン、と鼻を鳴らして答えた。その自信が根拠に基づいているのかは信用ならんのだが……いや待てよ? もし、万が一こいつが本当に勉強しなくて補習になったとしたら……しばらくはオレの部屋に来ることはなくなる。それはそれで、悪い話じゃない。むしろ願ったり叶ったりだ。
「ふむ……それなら良かった」
「え?」
少しだけ、声に安堵の色が混じったかもしれない。内心ではそのまま勉強しなくて補習になれと思っていた。まぁもう少しおだてるか。こいつは単純だからな。
「一応だが、勉強しといたほうがいいんじゃないか?でも、お前が頭いいならやらなくて大丈夫だな!」
さらに追い打ちをかけるように、勉強しなくて大丈夫、という方向へ誘導してみる。これで、白石が「やっぱり私は天才だから勉強なんて必要ないです!」と思ってくれれば、しめしめだ。やっと、一人きりの時間が復活するぞ! 放課後の平和を取り戻せるかもしれない。
「え……先輩……私の心配してくれてるんですか?」
しかし白石の反応はオレの予想とは少し違った。彼女は目を丸くして、驚いたような、そして少し感動したような顔をした。え。違うんだが?心配なんてしてないんだが?
「まっ……まぁ一応な……」
「じゃあ、真面目に勉強しようかな。先輩がそこまで心配してるなら……」
白石はそう言って、急にやる気を出した表情で再び参考書に向き直ろうとする。
「え?」
なんでだよ!せっかく勉強しなくて補習になるように仕向けたのに!オレの計画が台無しだろうが!空気読めよ白石!
「え?ってなんですか?」
「お前頭いいんだろ!テスト勉強すんなよ!ゲームやれゲーム!」
「嫌ですよ。補習になったら嫌ですし」
「じゃあゲームで勝負しろ! オレが勝ったら勉強するなよ!」
こうなったら力ずくでも白石を勉強から引き離すしかない。ゲームに勝てば、白石に勉強させないという約束を取り付けられる。
「勝負なら断れませんね!いいですよ、やりましょう!」
結局、白石はテスト勉強を放り出し、オレは自分の勉強を中断して白石と白熱したゲームをやり続けた。時間はあっという間に過ぎ、気づけば夜になっていた。
そして、その結果、当然のようにお互いテストの成績は振るわず、見事に補習を受けることになった。放課後、教室に残って行われる補習。そして補習が終われば、帰る時間は自然と同じになる。
こうして、オレの「白石を補習にして部屋に来ないようにする」という浅はかな計画は失敗に終わり、皮肉なことに、以前はたまに一緒になるだけだった下校が、補習期間中は毎日一緒になる羽目になったのだった。
全く、人生は思い通りにいかない。そして、白石に関わる計画は、なぜかいつも予想もしない形で裏目に出る。平穏な一人きりの時間を手に入れようとした結果、白石と過ごす時間が、以前より増えてしまったのだ。この理不尽さも、白石といる日常の一部なのかもしれない。
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