男嫌いのツンツン美少女女子高生が俺の嫁になるまで

第28話 すぐに帰ってこれない ※凜華視点

　「……で、九重さん。私に何の用かしら？」

知らない子に屋上に呼び出されたのがよくわからなくて、私は身構える。

「四宮先輩って、男が嫌いなんですよね？」

「え？　ええ、まあ、そうね」

私の男嫌いはこの学校の生徒なら知ってる人は多い。

でもなぜわざわざ屋上に呼び出してそれを言うのだろうか。しかも知らない子が。

「私が男嫌いだと貴女に何か不都合でもあるのかしら？」

「違う！　違います！　逆です！　私は嬉しいんです！」

「……？」

なんか九重さんは急に目の色を変えてテンション上げたので私は若干気圧された。

「私もです！　私もなんです！

私も男嫌いなんです！　大ッッッ嫌いなんです!!」

九重さんは拳を強く握りしめていて、言葉には重い圧力を感じた。

彼女も男と過去に何かあったんだろうか。もちろん追求はしないが。

「そ、そうなのね……気が合うわね。なんだか親近感が湧くわ」

「私も湧きます！　四宮先輩は仲間です！　同志です!!」

「そうね……私以外に男が嫌いな女子は会ったことなかったからちょっと嬉しいわ」

「はい、私も嬉しいです!!」

本当に言葉や眼力の圧力が凄まじい。相当男嫌いなんだろう。男に対する敵意や悪意は私以上かもしれない。

ちょっと嬉しい気持ちがあるのは本当だ。親近感も湧くし、仲間がいたという事実が少し自分をホッとさせるところもある。

あるが……

「……で？　私に用というのはそれで終わりかしら？」

だが、私は今まで一（・）人（・）でやってきた。これからも一人でやる。

気が合う人がいたからといって仲間にしようとか協力してもらおうなんてことは一切思わない。

「いえ、お話はこれからです。

私、四宮先輩が好きなんです！　付き合ってくださいっ‼︎」

…………

ああ、九重さんってそっち系か。百合さんって名前だけど本当に百合なのか。

私は同性愛でも異性愛でも等しく平等だと思っている。驚きはしない。彼女はおかしくない、普通である。

私も、ここは真剣に返事をするべきだ。

「……ありがとう。でも私は……男が嫌いとは言ったけど、女が好きというわけではないのよ。ごめんなさい」

私は九重さんに深く頭を下げた。

私と彼女では、男嫌いのニュアンスが少し異なっていたようだ。それをわかってほしい。

「……それは……四宮先輩も、恋愛対象は男ということですか」

「そうじゃないわ。男とか女とかは関係なく、私は恋愛とかはする気はないの。恋愛対象は、私にはないのよ」

私の中にあるのは、友達の無念を晴らすことだけ。

それ以外はいらない。恋とか恋愛に興味はない。これまでも、これからも。

「……そうですか。わかりました」

九重さんはわかってくれたようだ。

「じゃあ今日、私とデートしてください！」

「えっ⁉︎」

「お願いします！　今日だけ！　今日だけでいいんです！　今日だけ私と付き合ってください！　今日だけでいいから四宮先輩と想い出作りたいんです！　それでキッパリ四宮先輩のことはあきらめます！」

「きょ……今日……？」

「今日ですっ！」

「でも私、今日はこれから用事が……」

今はレイプ犯探しの最中で。明良やバカスケベも待たせてる状態で。だからできる限り早く戻らなきゃいけない。

私は寮の管理人なんだ。私がしっかり時間に厳しく動かないと、寮生の男どもに示しがつかないんだ。

「お願いします！　ちょっとだけ！　ちょっとだけでいいですから!!」

圧力がすごい。押しがすごい。これを断れる人は少ないのではないかと思う。

……これを下手に断ったら、今後もっとめんどくさいことになる可能性もある。男だったら木刀でバッサリ斬り捨ててるところなんだが、後輩女子となるとそうもいかない。

ちょっとだけと言ってるんだから、ここはおとなしく言う通りにした方がいいかもしれない。

「……わかったわよ。ちょっとだけだからね」

「やったぁ！　ありがとうございます四宮先輩!!」

九重さんは抱きつこうとしてきたが、私はヒラリと避けた。

「今日だけだからね。明日からは関わらないでちょうだい」

「わかってます！」

九重さんはニコッと笑った。

今日だけ、ちょっとだけ、九重さんという女子生徒と時間を共有することになった。

―――

　私は、七塚寮に戻ってきた。

スマホを確認してみると、時刻はなんと23時を過ぎてしまっていた。

「……ちょっとだけって言ったわよね……？」

九重さんに連れ回された。ウインドウショッピングに行ったり、映画館に行ったり、それなりに楽しい時間ではあったんだが……

こんな夜遅くまで付き合わされるとは思わなかった。途中で帰ろうとすると泣かれそうになったし、九重さんが満足するまで帰れなかった。

考えが甘かったか。今日だけという条件、明日からは関わらないという条件では、すぐに終わるわけはなかったか。

九重さんはとても満足したようで笑顔で別れを告げていたから、この時間は無駄ではなかったんだろうけど。

でもこんなに暗くなるまで時間がかかってしまった……

明良とバカスケベに仕事を押しつけて放置したまま。

夕食の時間も、入浴の時間もとっくに過ぎてしまった。未成年なのに、夜遅くまで外をほっつき歩いた。管理人の私は、寮の仕事をサボってしまった。

もう寮生たちは寝ているだろう。明良もバカスケベももうとっくに調べものなんてやめて部屋に戻っているだろう。

まあ仕方ない。今日のロスした分を取り戻すべく、私はもうちょっとだけ調べものをしようと思い、3階の物置部屋に向かった。

「……あれ？」

3階に上がると、物置部屋のドアが少し開いていて、中から光が漏れているのが見えた。

まさかあいつら……電気点けっぱなしで鍵も閉めずに帰ったのか!?

大幅に遅れた私も悪いが、これは許せないと思い、ドアを開けて中に入った。

「―――……!?」

蛍光灯が半分切れていて、チカチカする部屋の中。

部屋の中を見た私は、自分の目を疑った。

だって、明良がまだいたから。

あぐらをかいて、薄暗い室内で本を読み険しい表情をしている明良の姿が、そこにあった。

明良は私が戻ってきたことに気づき、目が合う。

ギロッと睨まれた。

「おっせぇよ四宮!!　今まで何してたんだよ!?」

明良は声を荒げる。彼の怒りはごもっともだ。

私が呼び出されてこの部屋を出たのは17時頃。私が戻ってきたのは23時過ぎ。

6時間も彼を待たせていたのだから。

「……な……なんで……？」

「あ!?」

「あんた……こんな時間までずっと調べもの続けてくれてたの……？」

「何言ってやがる!?　戻ってくるまでここでずっと調べとけって言ったのはお前だろうが!!」

「そ、そうだけど……」

信じられなかった。こいつがこんな時間まで残ってくれていたということが。

てっきりとっくに寝ているものだと……

なんで？　なんでそこまでしてくれるの？　そこまでする義理はないはずなのに、なんで……？

私の顔を見て私の考えていることが読まれたのか、明良はさらに鋭く睨みつけてきた。

「俺だってレイプ犯を真剣に探してんだよ。解決のためにできることは徹底的にやる。

……それに、お前に逃げたと思われるのも癪だったからな」

「……！」

「何ボケッとしてんだお前。ていうかお前こんな時間まで何やってたんだよ」

「……その……いろいろあって……」

「んだよいろいろって……」

グ～ッ……

ここで大きく鳴った腹の虫。明良のお腹の音……

お腹を空かせた音を室内に響かせてしまった明良はプイッと視線を逸らした。

「チッ……お前のせいで夕食も食べ損ねちまったし、入浴だってお前が一番最初だから順番的に誰も入れてねぇぞ。マジでふざけんなよこのクソガキが」

「……っ……」

夕食も食べてない。入浴も済ませてない。

彼はずっとここで頑張っていたんだ。義務でもないことを、一生懸命……

―――

　その後、私はお風呂に入った。

お風呂は大好きだ。すごく気持ちいいしスッキリする。はずなのに……

今の私の心はグチャグチャでメチャクチャだった。

……三吉明良……

男なんて大嫌いのはずなのに……男なんて下劣な生き物のはずなのに……

何よあの男。なんでそんなに頑張ってんのよ。なんでそこまで協力してくれるのよ。

あいつには何も関係ないし、あいつには何のメリットもないはずなのに……

「……ムカつく……」

ポツリとこぼした私の言葉は湯気に溶けていく。

私は感情をグチャグチャにしながらお湯をブクブクとさせた。