第5話 美少女女子高生の入浴




―――




 そろそろ20時か。あの忌々しいクソガキが入浴する時間だ。

俺は本当は21時に入浴していたんだが、あのガキのせいで22時になっちまった。

万が一あのガキと何かあったらイヤだからな、あのガキが入浴している間は部屋でおとなしくしていよう。



「トイレ行ってくる」


「おう」



平助がトイレに行った。俺はベッドの上でただゴロゴロしていた。



数分後。


ダダダダダダ


なんか激しい足音が聞こえてくる。その足音は俺の部屋に入ってきた。

誰だ!? と思ったが、平助だった。なんだ平助かよ、驚かせやがって。なんでそんな足音させてんだよ。



「ハァ、ハァ……あ、明良! 大変だ、大変だぞ!」


「ん⁉︎ なんだ、どうした⁉︎」


平助がかなり慌てていたので俺もギョッとした。



「さっき大浴場の前を通ったんだけどよ、凜華ちゃんが服を脱いでる音を聞いちまったよ! メチャクチャエロかった!」



「…………」



なぁ……あのガキの風呂ネタまだ引っ張るんか?

血相変えて戻ってきたから何事かと思ったら……俺は平助に蹴りを入れた。



「いてぇよ明良!」


「うるせぇ、少しは女から離れてくれよ」


「でもよぉ、俺たちの寮で可愛い女の子が裸になってると思うと興奮してこねぇか?」


「全然しねぇ」


「そうか、俺はメチャクチャ興奮するぞ。ただの布が擦れる音でしかないのに、なんで女の子が服を脱ぐ音はあんなにエロいんだろうな」


「知るか」


俺その音聞いてねぇし、マジで知らん。



「よし、決めた。俺は凜華ちゃんのお風呂を覗く!」



「あ⁉︎」


なんかすげぇ覚悟を決めたようなキリッとした顔をしてるが、平助が言ったことは最悪だった。



「脱ぐ音を聞いちまってムラムラしてきたからもう我慢できん。今すぐ行くぞ!」


「……おい平助、悪いことは言わねぇからやめとけって。あんだけ木刀でシバかれてなんで懲りねぇのか」


「ちょっとだけでいい、一瞬だけでいい。命をかけてもいい、凜華ちゃんの裸を見たい。やらないで後悔するより、やって後悔したい」


「あのな平助、世の中にはやってはいけないことなんていくらでもあるんだぞ」


「いや、行くぞ。俺が行くって決めたからな」


「……俺もめんどくせぇからこれ以上は止めねぇけどさ、どうなっても知らねぇぞ」


「もちろん自己責任で、行くぜ!」



平助は部屋を出ていった。平助とは長い付き合いだが、あんなに真剣に集中した平助は初めて見た。そんなに見たいのか、全然理解できん。


……平助は普段はもっと賢い男なんだけどなぁ。女子高生が寮に住むことになったのがそんなに嬉しいか。ずっと女っ気のない生活してきたから反動がすごくて暴走しちまってるのかな。


前の管理人といい、平助といい、性欲ってここまで男を豹変させるのか。俺も肝に銘じとかないとならんぞ。



そういえばこの寮は露天風呂があったな……平助のヤツそこから覗くんだろうか。

しかもここは男子寮だからな、覗き対策みたいなことは全然してないぞ。

露天風呂の周りを囲む柵が低めだし、登ろうと思えば登るのは難しくない。

覗く難易度は低い、平助のヤツ本当に覗けるかもしれん。あのガキマジで覗かれるかもしれん。


まあ俺には関係ないけど。




 平助が覗きに行って数分後。



「ぎゃああああああ!!!!!!」



平助の悲鳴が聞こえてきた。部屋にいてもわかるくらい大きな悲鳴だった。悲鳴っていうか断末魔の叫びと言った方がいいかもしれん。


平助のヤツ、殺されたんだろうか。だからやめとけって言ったのに、あのバカ……



さらに数分後、平助は部屋に帰ってきた。重い足取りで。



「ぐぅっ……明良っ……」


「うわっ⁉︎ どうしたんだその手⁉︎」



平助の両手が血まみれになってて、俺は動揺を隠せない。



「聞いてくれよ明良……露天風呂の柵に、有刺鉄線が張り巡らされてた……」


「有刺鉄線⁉︎」


いつの間にそんなもんが……⁉︎

そういえばあのガキ、学長の孫娘とかだったっけ。こっそり有刺鉄線を取り付ける権力くらい持ってそうだな。



「暗かったから気づかずに柵を登ろうとして、それで手に刺さりまくって大惨事に……」


「うわぁ、想像しただけで痛ぇな」


「マジで痛ぇ……殺意ヤバすぎの鉄線だったぜ……」


「とにかく手当てしねぇとな」


「手当てなら凜華ちゃんにしてもらいたい……」


「黙れバカ! ホラ手ぇ出せ!」



俺は救急箱を持ってきて、平助の手を手当てした。

なんで俺がこんなバカの手当てしなきゃならんのだ……


平助の手のひらはズタズタに引き裂かれていて、手当てするのはキツかった。


まあ、覗きは普通に犯罪だからな。このくらいの罰は仕方ないかもしれない。




―――




 23時、就寝時間になった。

いきなり女子高生が管理人になった初日が、ようやく終わった。


俺は夜中に起きた。トイレに行きたい。

トイレに行き、用を足した。そしたら喉が渇いてきた。


何か飲もうかな。冷蔵庫は1階だ。

俺たち寮生はみんな2階に住んでいて、トイレは2階にあるからいいものの、台所は1階なので何か飲みたくなったら1階に降りていく必要がある。


階段を降りて1階にやってきた。

冷蔵庫をパカッと開けて、中を探す。

いろんな飲み物が入っている。少し迷ったがスポーツドリンクを選んだ。


ゴクゴクと飲んで喉を潤す。うん、うまい。



「あんた、何してんのよこんな時間に」



「んぐっ!?」



背後からいきなり声をかけられて、俺は飲んでいた飲み物を喉に詰まらせそうになった。


今は夜中、真っ暗な台所。冷蔵庫の中だけが光を放っている。そんな暗い場所でいきなり声をかけられたら心臓に悪いだろうが。


後ろを振り返る。そこにはパジャマ姿の四宮凜華がいた。


暗闇の中、冷蔵庫の光が四宮を照らしている。本当に無駄に美少女だなこいつ。



「何って、喉乾いてたから水分補給してただけだ」


「ふぅん」


すげぇどうでもよさそうな表情。こいつのすべてが癪に障る。



「お前こそこんな時間になんだよ」


「……トイレに行ってただけよ」


「あっそ」


「って、何言わせるのよ。サイッテー」


「なんでだよ⁉︎」


「トイレ行ったことを女の子に言わせるの最低よ。そんなこともわからないの? まったく、これだから男は」


「チッ、クソガキが!」



「……ていうかあんたさぁ、クソガキって呼ぶのやめてくんない?」


「あ? うるせぇよクソガキはクソガキだろうが」


「私はもう17よ!」


「ガキじゃん」


「そう言うあんたはいくつなのよ!」


「20」


「大して変わらないじゃないのよ!」


「いいや違うね、20歳は成人だ」


「成人でマウント取ろうとしてるところがめっちゃガキっぽいわね」


「あ?」


「何よ」



お互い睨み合い、バチバチと火花を散らす。

……が、その直後に強烈な眠気が襲ってきて、お互いの火花が弱まっていった。



「……バカバカしい、あんたとケンカしたって時間の無駄ね」


「こっちのセリフだボケ。何が悲しくてこんな夜中にお前とケンカしなきゃならんのだ。睡眠時間が惜しい」


四宮がクルッと背中を向けたので、こっそり中指を立てておいた。



「あ、言い忘れてたけど、私1階の部屋で寝てるから。就寝時間は絶対1階に降りてこないでよね」


それを言ったあと、四宮は自分の部屋に戻っていった。


2階に繋がる階段から一番遠い、一番奥の部屋を使っているらしい。

とにかくできる限り男たちから離れている部屋だ。


……本当に男がイヤなんだな。

そんなにイヤなのになぜか男子寮に住んでる謎が謎のまま、俺も自分の部屋に戻って寝た。

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