【悲報】俺、魔王なのにやる気ゼロ。→【朗報】部下が超有能なので、寝てるだけで人類が滅亡しそうです
天照ラシスギ大御神
第1章 転生魔王、初仕事は「よしなに」
第1話 社畜、死して魔王に転生す。ただしやる気はゼロ
蛍光灯の明かりが目に染みる。
チカチカと、まるで俺の限界を告げるアラームのように。
時刻は、午前3時を回っていた。
目の前には終わらない資料の山。
ディスプレイには、上司からの催促チャットがポップアップし続けている。既読を付ける気力すら、もう残っていない。
胃がキリキリと悲鳴を上げている。
カフェインだけが、今の俺の唯一の友達であり、生命線だった。
もう何日、まともに寝ていないんだろうか。
最後に太陽を見たのはいつだったか。思い出せない。
俺の人生、一体何のためにあるんだっけ……?
そんな疑問が頭をよぎった瞬間。
プツン、と。
脳の中で、何かが切れる音がした。
視界が急速に暗転していく。
ああ、ダメだ。もう限界……。
俺はそのまま、力なくデスクに突っ伏した。
これが、社畜・佐藤健太郎(さとう けんたろう)、32歳の、あっけない最期だった。
――次に意識が浮上した時、俺は信じられないほど豪華なベッドの上にいた。
ふかふかの感触。
身体を優しく包み込む、上質なシーツ。
ここは……天国か?
いや、にしては空気が妙に淀んでいるし、なんだか硫黄臭いような気もする。
ブラック企業の社内よりはマシだけど、天国ってこんな感じなのか……?
『おお! 魔王様! お目覚めになられましたか!』
突然、厳つい声がすぐそばで響いた。
驚いて顔を上げると、ベッドの傍らに、角と翼を生やしたマッチョな男がひざまずいていた。
赤い肌、燃えるような瞳。
ファンタジー映画に出てきそうな、いかにもな悪魔、いや、魔族か?
その後ろにも、ズラリと控えている。
ゴブリン、オーク、リザードマン……どこかで見たことのある、ファンタジーでお馴染みのモンスター軍団。
彼らは皆、畏敬の念を込めた眼差しで、俺を見つめていた。
……魔王様?
俺が?
状況が全く飲み込めない。
頭が真っ白になる。
しかし、一つだけ確かなことがある。
それは、全身を襲う強烈な倦怠感と、心の底から湧き上がってくる拒否反応だ。
(もう……働きたくない……)
そうだ。
前世の記憶が、トラウマと共に鮮明に蘇る。
俺は死ぬほど働いて、文字通り死んだんだ。
あんな思いは、もう二度と、絶対に、したくない。
このふかふかのベッドで、ただただ眠っていたい……。
『さあ、魔王様! 復活の今、我らに新たなるご命令を! 人類に鉄槌を!』
マッチョ魔族――たぶん側近か何かだろう――が、キラキラした目(赤く光ってるけど)で俺を見上げてくる。
命令?
ご命令?
それが前世の上司の「仕事しろ!」という叱責と重なって聞こえる。
ダメだ。
聞いているだけで、吐き気がする。
命令なんて、あるわけない。
考えるだけで、疲れる。
頭が、働かない。
「……(面倒くさい)……」
声を出そうとしたが、うまく言葉にならない。
ただただ、面倒くさい。
何もかも。
「……うむ……」
なんとか、それだけ絞り出した。
早く、この場を終わらせたい。
早く、寝たい。
「……よしなに、はからえ……」
そう。
あとは適当に、うまくやってくれ。
俺に聞くな。
丸投げだ、丸投げ。
「……(もう寝る)……」
それだけ言うのが精一杯で、俺は再びベッドに倒れ込んだ。
ふかふかの感触が、疲弊しきった精神をわずかに癒してくれる。
あとは頼む……って、何をだよ!?
俺は何を頼んだんだ!?
知らん! もう寝る! おやすみ!
俺が意識を手放しかけた、その時。
『ははーっ! 深きお考え、しかと承りましたァ!』
側近魔族が、感極まったようにブルブルと震えながら叫んだ。
え? 深い考え? 何それ?
彼は勢いよく立ち上がると、後ろに控えていた他の魔族たちに号令をかけた。
『聞けい、者ども! 魔王様より新たなる神託が下ったぞ! 総員、ただちに行動を開始する!』
『『『オオオオォォォ!!』』』
地鳴りのような雄叫びと共に、魔族たちは興奮した様子で部屋を飛び出していった。
あっという間に、広い寝室には俺一人だけが残された。
静寂が戻ってくる。
ふかふかのベッド。完璧な寝環境。
……いや、待て。
ちょっと待て。
俺、なんかすごい勘違いされてないか……?
「よしなに計らえ」って言っただけだよな?
何を承ったんだ、アイツら……?
途方に暮れる。
遠くから、ヴァルガスと呼ばれていた気がするマッチョ魔族の、勇ましい鬨の声のようなものが、微かに聞こえてくる気がした。
……まさか、何かとんでもないこと始めたりしないよな……?
いや、でも……。
まあいいか。
面倒だ。
寝よう。
俺は全ての思考を放棄し、再び意識を深い眠りの底へと沈めていった。
これが、異世界転生した元社畜の、記念すべき第一歩(睡眠)だった。
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