第4話 シーフは四つのスキルで一番無難

 この世界には、基礎スキルと呼ばれる物がある。

 それは言ってしまえば、人が持って生まれる素質のようなもので。

 <シーフ>もその一つだ。

 基礎スキルの数はそれぞれ四つ。

 前衛で剣などを振るうことに特化している<ウォーリア>。

 魔術使いの<メイジ>、回復を担当する<ヒーラー>。

 そして斥候を担当する<シーフ>の四種類。


 なんだかゲームみたいだな、と思うものの。

 そもそもこの世界はスキル制のライトなファンタジー世界だ。

 多少ゲームっぽいほうがわかりやすいだろう。

 基礎スキルが存在する理由自体は、創造神が絡んでたりとかでちゃんとした理由があるんだが。

 今は省略しておく。

 あまりに色々と複雑な神話が絡んでるので、語りだすと絶対に終わらないのだ。


 で、この基礎スキルはあくまで成長の指針みたいなもので、これだけでスキルが使えるわけではない。

 実際に戦ったり魔法を使うには「通常スキル」と呼ばれるスキルを覚える必要がある。

 人は成長の中で基礎スキルに応じた通常スキルを習得していくのだ。

 稀に複数の基礎スキルを持って生まれるやつもいるが、それは例外だな。


 この四つの基礎スキルにおいて、最も無難なのはシーフだと思っている。

 特定の状況下で風評被害が発生することは無視したうえで、だが。

 正確に言うと、習得する通常スキルが無難なのだ。

 隠密と探知により、一人でも活動しやすく。

 ウォーリアほどではないが接近戦を得意とし、人によっては弓系スキルや投擲スキルを覚えて遠距離戦にも対応できる。


 他の三つに比べて、冒険の主役になりにくいのもいいな。

 ウォーリアなんて冒険者の花形だし、メイジは火力の鬼だ。

 ヒーラーがいなかったら危険な冒険ができない。

 対してシーフはいるととても便利だが、絶対的に主役たり得る華がない。

 うん、俺好みの役割ジョブだな。


 ただ、この基礎スキル制度。

 一つだけ問題がある。

 いや、普通は問題にはならないのだが。

 俺みたいな実力とかを隠しておきたいタイプからすると、困ることがあるのだ。



 +



 その日、俺は調査クエストというものを受けていた。

 これは名前の通り、ギルドからこれこれこういうことがあったから、真偽を調査してほしいというもの。

 街の外に危険な魔物が出現したという目撃情報があったから、真偽を確かめてほしいというものが大半。

 ただ、ぶっちゃけそもそも調査を行うくらいなら、討伐したほうが速い場合が多い。

 多くの調査クエストは、目撃された魔物を倒せる冒険者パーティが受けてそのまま討伐クエストになる場合がほとんどだ。


 しかし、一部の調査クエストはそうも行かない場合がある。

 目撃された魔物が強すぎた場合だ。

 そういう時は、俺みたいな腕に信用の置ける<シーフ>が単独でクエストを受けることになる。

 シーフの隠密スキルは、基本的に自分にしか効果がないからな。

 他者にかけるタイプは効果が薄かったり、準備が大変だったりするというのもある。


 何にせよ、俺はこういう調査クエストも好んでいた。

 倒す必要がないからだ。

 強い魔物を倒すと、冒険者の知名度は一気に上る。

 それを避けるにはとにかく魔物を倒さないことが肝要。

 魔物を調査クエストは、まさにそんな俺向きの無難な依頼だ。


 さて、今回のクエストは「グレートホーンボア」と呼ばれる魔物の捜索だ。

 こいつ、非常に厄介な魔物である。

 何が厄介かと言えば、デカイ、速い、強いのシンプルさ。

 弱点がないのだ。

 そんな魔物が本当にロセスの街周辺に出現していたら脅威である。


 ダンジョン内部なら、何も問題ない。

 冒険者しかいないのだから。

 だけど町の周辺、特に街道付近に出現したら最悪だ。

 一般人がそれに襲われる可能性がある。

 そうなると、街では冒険者に対する非難の声が高まったり……まぁ、色々と面倒くさい。


 ただ、正直俺はこの目撃情報はなにかの勘違いであると考えていた。

 そもそもというのがおかしいのだ。

 グレートホーンボアは非常に凶暴な魔物で、そんな魔物を目撃して生きているというのがまずおかしい。

 もし本当にグレートホーンボアがいるなら、目撃した時点で死んでるだろう。

 なので俺は、採取クエストのついでに調査をする予定だった。

 採取をしながら森を歩くだけで、報酬が出るのだ。

 俺を直接指名した依頼でもある、ギルドが俺を信頼している証としてありがたく依頼を受けておこう。

 そう、思っていたのだが……


「……本当にいるのか、グレートホーンボア」


 いた。

 マジでいた。

 なんでいるんだよ。

 いちゃダメだろこんなところに。


 この世界の魔物は、何も無いところから突如として湧いてくる。

 なので、強力な魔物がポップする可能性はなくもない。

 ないのだが、湧く場所にも傾向みたいなものはある。

 ロセスの大森林はこんなやばい魔物が湧く場所ではないのだ。

 で、少し観察してみると――


「……だいぶ弱ってるな」


 見たところ、明らかに傷だらけで弱っているのだ。

 これなら目撃情報も出るわけだ。

 目撃した相手を追いかける気力もないのだから。

 しかしそれでも、なんというか……困ったな。


「ある程度弱ってはいるが、倒すとなると有力パーティで行かないと被害がでるだろ……」


 ララナが単独で挑むか、ルドガー達が挑まないと最悪死者が出る。

 でもどっちも依頼を受けれるくらい暇とは思えないんだよなぁ。

 とすると、ここで俺がなんとかしないとまずい。

 倒しきってしまうと面倒なので、更に弱らせて誰にでも倒せるようにする感じになるだろう。

 けど、そういう時に厄介なのが――


「……<シーフ>系のスキルが使えないのが面倒なんだよな」


 基本的に、この世界の戦闘はスキルに依存している。

 ウォーリアの攻撃方法も概ねスキルブッパだし、シーフだって強力な攻撃にはスキルが必要だ。

 要するに、スキルを使って攻撃すると癖みたいなものが残ってしまう。

 ここで俺が弱らせたら、見るものが見たら俺がシーフスキルで弱らせたと一目瞭然になってしまう。

 だから、実力を隠しておきたい俺みたいなタイプは、こういう時困るのだ。

 というわけで。


「やるかぁ……ウォーリアのフリ」


 こういう時、俺が取る方法は一つ。

 拡張袋の中から、鞘に入った剣を取り出す。

 大きな、一振りのロングソードだ。

 この世界は基本的に、基礎スキルとそこから派生する通常スキルが大事だ。

 しかしそれとは別に、魔力を用いた身体強化という技術がある。

 身体強化の他にも、魔力を用いればどの役割ジョブでも使用可能な技術を一般スキルというのだが、解説すると長くなるので一旦おいておこう。

 これを用いて長剣を用いて戦うことで、ウォーリアのフリをするのだ。

 そして、ギルドにはどうやら別の冒険者パーティとの戦闘で弱っていた……と報告すればいい。

 少なくとも、そうすればギルドに俺がやったとバレることはない。


「よし……やるぞ」


 そうして、俺はロングソードを構えて、グレートホーンボアに切りかかった。

 まぁ、これはこれで、別の問題が発生したりするのだが。

 今はそれは、考えないようにしておこう。



 +



 あの後、俺がいい感じにグレートホーンボアを弱らせた後。

 ギルドに報告して、討伐クエストが出された。

 んで、それを受けた冒険者がグレートホーンボアを討伐、これで事件は一件落着……なのだが。


「グレートホーンボア……別の場所で冒険者が戦い……弱らせてた……」

「……どうしたんだ、ララナ」

「んふふ……なんでも」


 俺は自分が拠点としている宿屋の食堂で、白髪赤目の少女に絡まれていた。

 いかにも無感情無口系です、みたいな顔をしているが実際には感情表現豊かで表情が動かないだけの少女だ。

 名をララナ、数少ない俺と交流のある冒険者である。


「わたし……その人……すごいと思う」

「そうか」

「すごい……んふふ」


 俺がウォーリアに偽装して魔物を倒す、ないしは弱らせることで、一般の人間はそれに気づけなくなる。

 しかし、一つ問題があるのだ。

 それは、逆にララナのような実力者には、俺がやったと一発でバレてしまうこと。

 そもそも直前に俺が依頼を受けていたことを、彼らはどこかからか情報を集めてくるし。

 そのことで、からかったりしてくる。

 まぁ、なんというか。

 世の中には変なやつも多い、という話だ。


――――

お読み頂きありがとうございます。

フォロー、レビューいただけますと大変励みになります!

ぜひぜひよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る