シーフスキル持ち転生者は異世界を無難に過ごしたい

暁刀魚

第1話 シーフ転生者は無難に生きたい

 俺は転生した今も、常々無難に人生をやり過ごしたいと思っている。

 前世では出世や高給よりも、定時で帰れることを優先し。

 そのために目立たないようにしながらも、周囲からの叱責でストレスを貯めない程度の成果は出していた。

 それこそが無難というものだし、俺みたいな凡人が望める最上級の幸福と成果だったのだろう。


 そんな俺が転生した時に手に入れたスキルは<シーフ>スキルという、一見すると無難とは程遠いスキルだった。

 しかし、その世界で<シーフ>スキルは決して特異なスキルというわけではなく。

 そこまで偏見の眼を向けられることはないものだ。

 まぁ、状況次第では風評被害を受けることもあるスキルではあるのだが。


 とはいえ、そうなってくると<シーフ>というスキルは非常に無難なスキルなのではないかと思う。

 <シーフ>のスキルは、罠の探知や魔物の察知といった斥候のためのスキルだ。

 ファンタジー異世界を冒険するには、そういった技能は必須と言っていい。

 そこに加えて、最低限ソロで活動するにも問題ない程度の戦闘力も確保できるのなら。

 実にシーフというスキルが無難に優秀なスキルであるか、解ってもらえることだろう。


 何よりも、ソロで活動できるというのがいい。

 俺はあまり人付き合いを好むタイプではないのだ。

 とはいえ周囲から疎まれたり、排斥されない程度の評価は必要だ。

 なにせ、変に叱られたり攻撃されることが、労働においては最も大きなストレス元なのだから。

 ある程度の評価は、俺の満足にもつながるしな。


 だから俺は、常々異世界を無難に過ごしたいと思っている。

 そのためにも、色々と俺には、俺なりのやり方があるのだ。



 +



 採取クエストは、俺が考える限りもっとも無難なクエストだ。

 まず冒険者の大半は討伐クエストが本分だと思っているから、採取クエストを受ける冒険者は少ない。

 かといって受ける冒険者がいないわけではないから、常に近くには冒険者がいるわけだ。

 魔物が出現しても、広く入り組んだダンジョンの中と比べて圧倒的に安全というわけ。

 

「と、こんなもんかね」


 俺は、ギルドに張り出されていた採取クエストの内容にあった素材を拾い集め、内容を確認する。

 拡張袋と呼ばれる、袋の中の空間を拡張する魔道具にわんさか詰め込まれた素材。

 薬草だったり、魔力を含んだ石だったり、魔物のドロップ素材も混じっている。

 採取クエストは比較的安全だが、魔物がでないわけじゃない。

 何より俺は、別に危険を避けて採取クエストを選んでいるわけじゃないからな。

 理由は幾つかあるが――


「今から帰れば、飯にちょうどいい時間だな」


 日帰りで帰れるからだ。

 それも、この世界の時間で朝の十時くらいに街を出て、十七時くらいに帰還できる。

 途中に昼休憩を一時間挟んで、実働六時間。

 それでいて、稼げる金額は一日を贅沢に暮らせるくらいのものになる。

 前世ではありえないくらい、コスパのいい稼ぎになるわけだ。

 何より実働六時間ってのが最高だ。

 前世で八時間も人生を無駄にしていたあの頃が何だったのかというくらい、気楽な生き方である。

 これを安定して行うことが、まさしく無難な生き方と言えるだろう。


 実働六時間でも長いって?

 いや、個人的にはそれくらいが一番いい感じの労働時間だと俺は思うぞ。

 そもそもここは異世界で、前世と違って娯楽が少なすぎるんだ。

 仮に午前中だけで仕事を終わらせて街に戻っても、時間を潰せる娯楽は限られている。

 なので六時間が無難な労働時間だと思うが、どうか。

 ともあれ。

 そうして俺が帰ろうと思った、その時だった。



 甲高い女性の悲鳴が、森の中に響き渡った。



 ――現在、俺がいるのは俺が拠点としている街ロセスの近くにある大森林。

 ここには魔物が湧いてくる代わりに、豊富な素材がある採取クエストのメッカ。

 その、結構奥の方だ。

 入口の方は魔物もすくなく安全なのだが、このあたりまで来ると結構危険な魔物も多い。

 そこで悲鳴が聞こえるってことは、状況はかなり危ないのではないだろうか。


「……仕方がないな」


 残念ながら、無視はできない。

 ここで見捨てても、そうそうバレることはないだろう。

 でも俺が採取クエストで大森林に入ることは、ギルドには把握されている。

 そこから、見捨てたことが露見する可能性は否定できないのだ。

 もし露見してしまったら、無難な冒険者生活は送れない。

 何より――


「見捨てたら、俺の夢見が悪すぎる」


 これでも俺は、前世からの小市民な気質を失ってはいないのだ。

 流石に殺人に対する抵抗は、異世界生活で薄れてしまったけれど。

 救出できる相手を見捨てる罪悪感には、さほど慣れていない。

 故に俺は、得物であるナイフを抜刀しながら隠密系のスキルを起動する。


「<アドバンスドハイド>」


 この世界には<シーフ>を含む四つの基礎スキルがあって、そのスキルごとに通常スキルというものを取得できる。

 <ハイド>もまた、その一つ。

 まぁこれは、その上位スキルなのだが。


 そうして、一気に音のした方へ駆け出す。

 探知系のスキルも併用して、位置はすぐに特定できた。

 全力疾走すると、音で魔物を引き付けかねないが<アドバンスドハイド>を使用しているからその心配もない。

 目的地に到着した俺は、そこで二人の冒険者がハイゴブリンに襲われているのを見つける。


 男女の冒険者パーティである。

 見たところ、どう考えても森の深層にふさわしくない装備だ。

 男は腕を剣で切り落とされ、女は――


「やめて! この! やめてよ!」


 抵抗する女を襲うハイゴブリンに、俺は即座にナイフを投擲する。

 そんなの当たるのか、と思うかもしれないが。

 この世界には投擲スキルも存在するのだ。


「<スローイング>」


 寸分たがわず、ハイゴブリンの眉間にナイフが突き刺さり、直後に俺が戦場に躍り出る。

 驚愕する冒険者とゴブリンを他所に、その場にいる数体のハイゴブリンを切り飛ばす。

 <アドバンスドハイド>の効果が残っているから、ハイゴブリンたちはナイフしか認識できなかっただろう。

 とにかく、戦闘終了だ。


「大丈夫か?」

「え、あ――」


 困惑する男女の方に視線を向ける。

 男は腕を切り落とされ、血がまだ溢れいてた。

 だが、女の方は見た感じ<ヒーラー>だ。

 この場で軽く腕を治癒して、街の治療院に行けば落とされた腕もなんとかなるだろう。


 それから、俺は二人が落ち着くのを待って、女が男を治癒するのを確認してからこの場を離れることにした。

 最初のうちは、ふたりとも若干俺に対する警戒が見えたのだが――


「森の奥に入るなら、ギルドの魔物避けを買っておけ。アレは長年この大森林用に研究された代物だ。ダンジョンや他の土地だと効果は薄いが、大森林でなら効果はてきめんだ」

「な、なるほど」


 なんてアドバイスをしているうちに、いつの間にか警戒も解かれていた。

 せっかく助かった命を、無知で散らされても困る。

 これに反省して、次からは色々と知識を蓄えてから森の奥に入ってもらいたいものだな。

 なんてことを思いながら、男の腕の治癒が終わるのを見届けて、俺はその場を後にするのだった。



 +



 二人の冒険者パーティは、突如助けてくれた<シーフ>の男と別れてから、彼の名前を聞いていないことに気がついた。

 しまった、と男のほうが無事な方の手で頬を掻くが、女がこんな事を言う。


「彼は”防人”さんじゃないかしら」


 防人?

 と、首を傾げる男に女は語る。

 冒険者の街”ロセス”には、不思議な冒険者がいるという。

 パーティは組まず、基本ソロ。

 親しい冒険者はいるようだが、素性を知るものは少ない。

 とにかく腕の良い<シーフ>の冒険者で、活動場所はダンジョンではなく大森林。

 普通、冒険者はダンジョンに潜るものだ。

 危険は多いが、実入りも大きい。

 それなのに大森林を主な活動場所とするのは、なかなかにレアだ。

 無論、いないわけではない。

 でなければ”彼”がそんな悪目立ちしそうなことはしないだろう。


 そんな彼の一番の特徴はなんといっても、森で危険に陥っている冒険者を助けてくれることだ。

 今回のように間一髪で彼が救援に駆けつけてくれることがあるらしい。

 絶対、というわけではないが。

 彼が活動している時間帯なら、その精度はかなりのものらしい。


 かくして彼は、善良な大森林の”防人”として一部の冒険者に知られている。

 決して知名度は高くないが、彼を知るものは彼を高く評価するだろう。

 それはまさに、彼の求める”無難”にふさわしい評価なのだが。

 残念ながら人付き合いを好まない彼――ローガンは、あまりそのことに実感がないのであった



 ――

 シーフが無難に生きつつそれを評価される感じのお話です。

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