第3話 不均衡な関係
入念に準備を整えたルナはその日潜伏していた廃墟から3㎞ほど離れた都市へ向かおうとしていた。
ウエストポーチに手を添えて息を吐いたところで、ふと昨日兵士から見事に奪い取った小型のレーザー銃の事を思い出し足元で、いかにも猫のような身なりの整え方をしているAIロボット「ステラ」に目線をやった。
「それって、ステラには必要のないことじゃなかった?」
股の間にしなやかな手を置き、固くて融通の効かなそうな舌でお腹を舐める姿は
いつも思わせられるが異様な光景だった。
「僕には猫の習性がインプットされているから仕方ないんだよ。」
ルナの質問にいい加減つまらなそうな返しをして、ステラはこれまた猫らしく欠伸のような仕草をしてみせた。
「あのね、ステラ」
ポーチの
「使い方を教えてほしいの。」
実を言うとルナはレーザー銃を撃ったことがなかった。
手に取り持ってみたことはあったが重くて構えることなど到底できなかった。
15にも満たない、ただの人間のルナが銃を扱ったことがないのは当然のことではなかった。
この灰の世界で都市に住まない住民はルナの他にも余るほどいる。
ならば、それらの住民は都市外で豊かに過ごせるかと言うと、そうではない。
都市の兵士やルクス教団は常に、何故か 奴隷を欲しているのだ。
そして何も持たないただの人間であるルナたちは潜伏、逃亡するしか道がなかった。
両親を亡くしてから、いくつか存在するコミュニティに
所属させてもらった事がルナにも二度あったが
そういったコミュニティは大抵いつの間にか離散してしまうのだ。
運悪く兵士に見つかったり、コミュニティ内でトラブルがあったり、食料の供給が行き渡らなかったりと様々な理由があるが、ルナが所属していたコミュニティも
そして潜伏しながら逃亡生活をする彼らに必須のものが武器だった。
扱う必要のある武器を使うことを良しとしなかったのは、ステラだった。
散々反対したのに、なおも諦めの悪かったルナがいざレーザー銃を手に取り
それが自分には取り扱えない、と気付くと、ステラは満足そうに、いや、どこかほっとした様子だった。
ルナが小型のレーザー銃の存在を知った時、ステラは自身の管理能力のなさを機械ながら反省した。
それらのステラの心情(ロボットに心情がないと言う話は置いておいて)や指示の仕方にルナは気づいていた。
だからなるべく、なんでもないような態度でルナはステラに銃の扱い方を問いかけた。
「ルナはお守りがわりに、それを持ってたらいいんだよ。」
小さな作戦は失敗した。 やはりステラは良しとしない。
それが何故だか、なんとなく察することができたが、ルナはその理由に納得がいかなかった。
「お守りって何?」
「災難を防いだり、願いを叶えるためのものだよ。」
「そうじゃない!」
機械的な返事に、いい加減ルナは苛立った。
「持っているだけで自分の身が守れるわけがない!」
「僕がいる。」
ステラの目が光った。
暗い世界でその目は常に眩しく感じるものだが、
突然目線が動くとその緑の光は線が宙に走ったように見えた。
「ルナは僕が守る。」
ふいに雨の音が聞こえた。
壊れた壁の外を覗いて空を見る。
空も地面も乾いていて、それはただの夜だった。
雨の音はルナの記憶からきたものだった。
ステラの解答に
「それじゃあ、頼りないよ。」
そういう意味で言ったつもりじゃなかった。
そういう意味で伝えたいんじゃなかった。
でも、ルナにはそれをどう伝えたらいいか分からなかった。
わずかな経験とわずかな知識しかないルナには
「ステラ」
不安だった。
「何かあったら言ってね。」
機械的なステラの解答に、ルナは足元から血の気がなくなるような感覚がした。
壁から脱出して、慎重に都市へ進む間も、ルナは進んでいるのか立ち止まっているのか
暗い世界で、自分が今どこにいるのかも分からなくなった。
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