01



「おっちゃん、ビールとナンコツ!」


「あいよ!」



気がつけばあたしは、たまたま通りかかったおでんの屋台に入っていた。




「いやしかしお姉さん、いい飲みっぷりだねえ。しかもその制服、をパクっただろ。怒られるんじゃないのかい、そういうの」


「パクってないよー、本物本物! ほら見ておっちゃん、このスカートの生地。なんかいい感じな質感になってるでしょ。この指でつまんだこんなちっちゃい範囲で五万はするからね。怖いよ世の中」


「わからんなぁ俺には。わかるのはおでんの味が染み込んでるのか染み込んでないのか。それぐらいさ……」


「やだかっこいい……職人の目をしていらっしゃる。胸の動機と顔の火照りと頭のクラクラが止まらないよあたし」


「酔ってるんだと思うよそれは」


「寄ってないよ。あたしはどっちかっていうと離れ目だよ」


「とても酔ってるんだと思うねそれは」




おっちゃんは「もしアンタが本当にあの学校の子なら天地もおでんも全部まるっとひっくりかえるよ。それに未成年がこんな堂々と飲むわけないでしょう」とぶつぶついいながら小さな椅子に腰掛けて、くしゃくしゃになった新聞を開いた。



あたしは歯と歯の隙間に挟まったナンコツのカスを舌の裏でとることに必死になりつつ、勢いよくのけぞって上を見た。



ずっと伸ばしてる長い黒髪が、のけぞったことで背中にくっつく。


長年連れ添った旧友に背中を撫でてもらったみたいで安心したけど、紺色の空を見ると不安になった。



不思議。


こんなに綺麗に星が出て、ちゃんと瞳に映して前を向こうとしてるのに、心が明るくならない。




まだ家に、帰りたくないよ……。


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