時間の巡礼者の記録

@Hiro1105

第1話 夢の中のクロノス神

奥さんに婚約祝いでフランク・ミュラーの時計を贈った夜に私は不思議な夢を見た。


フランク・ミュラー自身が夢の中に現れた。


その隣に立っていたのが、

クロノス神──時間の神だった。


彼は人の姿をしていたけれど、

その身体の奥から柔らかな光が滲み、

無数のビザン数字が浮かんでは崩れ、

再び構成されていった。


まるで存在が「時間そのもの」の、

意志をもって立っているかのようだった。


私は月面のような無音に包まれた世界に運ばれ、

かの地でクロノス神はこう語りかけてきた。


「時間のことをいっぱい考えて、たくさん経験して、語って、楽しんでね。」


その言葉は祝福にも似ていた。


けれど夢から醒めた私は、ただの祝福ではなく、

どこか「呪いのような呼びかけ」として受け取った。


クロノス神は、この時私に試練を与えたのだと思う。


それは、何か偉業を成せという命令ではない。

誰かに勝てという課題でもない。


それは──

「時間に触れながら、壊れずに生きていける者であれ」という、静かで、しかし途方もない命題だった。


ただ時に流されるのではなく、

ただ時間をやり過ごすのでもなく、

一歩ごとに時間という透明な存在と、

共に歩き、その厚み、ざらつき、痛み、温度を自分の身で、

引き受けて生きろということだった。


私はその日から、

“時間の巡礼者”として生きることになった。


それは何かの肩書きではない。


誓約書でもなければ、選ばれた役割でもない。


私の魂の奥で、自らに課した約束になった。


だから私は、

今こうして時計を通して時間と語り合っている。


それが、今は目に見えない神との、静かな対話の続きであり、時間の巡礼者の役割でもある。

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