病気と人類、と青谷上寺地遺跡
HTLV-1(human T-lymphotropic virus type I)という、ウイルスがいる。このウイルスは、人類がどのように世界へ進出したか、というストーリーに示唆を与えてくれる。このウイルスは、はるか昔に人類を宿主とすることに成功している。
その感染経路は、母乳または出産関連がほとんどであり、つまり、母から子へ感染する。ほか、性行為で男性から女性への感染が認められる。主な感染経路の母乳感染で、感染率は30%未満。つまり、母乳育児であっても、必ずしも感染するわけではない、というところがポイントである。
日本名では、ヒトT細胞白血病ウイルスといって、白血病や神経系の異常を起こすウイルスで、感染力も強くなければ、発症平均年齢が60歳以上と高齢であり、寿命の短い時代では発症する前に死亡することが多かっただろうと考えられる(若年では発症しない、というわけではない)。
このウイルスに感染している人(キャリア)の世界分布は、アフリカのギニア湾周囲と南米の赤道下、イラン、パプアニューギニア、日本が多い場所として認められる。日本は、特に多い地域である。
日本での分布は、九州に特に多く(大分を除く)、また、四国・紀伊半島の海岸線に多い。三陸海岸、北海道も多いとされるが、いずれもほぼ海岸沿いである。その中で、山陰地方だけは、海岸沿いであっても少ない。
さて、この前提から考えていくと、アフリカ大陸と南アメリカ大陸がそれほど離れていない時代から、このウイルスは存在したのだろう、と推測される。
そして、日本まで人類とともに到達し世界征服したものの、ヨーロッパ大陸や北アメリカ大陸では、ウイルスに感染していない女性の勢力に押し負けてしまった、と考えられる。
だが、日本だけを見ると、特に九州では非感染の女性の勢力を圧倒した、といえる。日本での、西>東、海岸線>内陸という分布は、南方から渡ってきた人たちがいること、そして、内陸部には出自の異なる人々が住んでいたことを想像させる。山陰地方において、海岸線であってもウイルスキャリアの人が少ないことについても、同じように考えられるだろう。
一方、東大の渡部 裕介(生物科学専攻 特任助教)、大橋 順(生物科学専攻 教授)両教授による研究では、島根県(山陰地方)は縄文度合いが高いという結果になっている。その違いは、どのように解釈すればよいのだろうか。
謎解きは、いつも楽しい。
たまたま、非感染の女性の遺伝子が強く継承されたのか、運良く感染しない子供たちが成人することが多かったのか、物理的に大陸から渡ってきた女性が先住の女性を駆逐した結果なのか・・・。
鳥取県の、青谷上寺地遺跡の母系のルーツは、渡来系が優位だとされる。それは、縄文後期時代よりも前のものか以降のものか。もし、縄文後期以降であるなら、黄海なり対馬海峡なりを、女性も渡ってきたといえるだろう。
それから。
日本列島での分布をみると、九州や太平洋沿岸の一部以外は、まとまった地域として感染の拡大がない。
これは、女性の嫁入りが、比較的遅い時代に始まったことを意味しているのではないかと思う。嫁入りがあっても、遠方へ嫁ぐ、ということはそれほどなかったということだ。
現代では、それもこの数年で、関東や関西での感染者が増えている。これは女性にも、都会への就職・進学の道が開けた、ということを裏付けるものだ。良い悪いではなく、そういうことだ。
もし、昔から、遠方への嫁入りが当たり前に行われていたなら、現代と同じように広い範囲でキャリアが認められるに違いない。
日本では、少なくとも庶民の間では、妻問婚が一般的だった時代が長らく続き、そうでなくなっても、女性は親元のそばにいる、そのような文化ではなかったか、と思うのである。
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