第10話 王妃の手紙
浴室でバスタブの中に浸かってリラックスしていると、メアリー=アンが入ってきた。何やら慌てた様子で、栗色のくるんとカールした前髪を乱している。
「旦那さまがお呼びです。至急夫婦の寝室に来るようにとのことでございます」
メアリー=アンが言った。
ポールは手に
「王が死んだそうだ。クラリッサが手紙をよこした」
「まあ、痛ましい……」
けれど、私の声はあまり悲しそうには響かなかった。結局王など、私にとっては赤の他人でしかない。一度も会ったことがないのだし。
風邪をひいて寝込んだかと思ったら、あっという間に死んでしまったというのだ。王がまだ若く、健康だっただけに宮廷での衝撃も大きかったとか。
「宮廷に行ってやらなければならないよ。姉は幼い子どもを抱えて一人きりなんだ……」
ポールは憂鬱そうにそんなことを言う。
私は手紙を読んだ。
……ポール、急いで宮廷に来てちょうだい。ロバートを守ってやらなければならないわ。まだ幼いのに王冠を継ぐなんて。あなたの助けが必要だわ。それから、優しくて賢いキャシーの友情も必要なの。領地はフィーリアに任せて一家で来てください(アンとレオも連れて)。宮殿に部屋を用意しておきます……
王は死んだ。クラリッサがこの領地を去り、宮廷に帰った後に。ダリアはポールから離れ、王の愛人になった。そして私はポールの妻に……
キャシーの友情も必要なの……
クラリッサの手紙の文句が、頭の中で繰り返し響いた。以前王妃は私の前で友情という言葉を使ったのだ……
私は雪そりに乗り込みながら考えていた。隣には侍女のメアリー=アンが座っている。双子たちは寒い中、隣に座らされて不機嫌な顔だ。ポールは一人、馬にまたがっている……
やがてそりが動き出した。なだからな白い丘がどこまでも続いている。粉雪がまっていた。
いや、考え過ぎだろう。クラリッサが何か王の死に関与したのではないかと思うなど……
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