下町の洋食屋のクソ親父

菜の花のおしたし

第1話 父の料理はひとつも好きになれなかった

住んでる団地のベランダからゆうげの香りがすると、魚なのかな?

カレー?お肉焼いてる?

なんて、想像しちゃう。


私の父はごくごく下町の洋食屋をやっていた。

調理は全て父ひとり。

開店時間前にじゃがいもを皮ごと茹で薄皮を剥くとマッシュする一緒に茹でた人参は銀杏切り、きゅうりはこれでもかってくらい薄い輪切り。ハムは短冊切り。

面白いくらいに同じ大きさ。

自家製のマヨネーズと塩胡椒で味付けしたら出来上がり。

付け合わせはカレースパサラダの時もあった。

沸騰したお湯にカレー粉を入れて茹でるとカレー色のスパになる。

薄切りの玉ねぎ、細長いきゅうり、ハム、あとは同じ。


キャベツは芯をくり抜くとぎゅと押し、タッタッタッタッタッタッと同じリズムで

キャベツの千切りが出来上がっていく。

それはふわふわで子供から見てもすごいなって感心したっけ。

大ぶりのトマトは八等分にして、皮の部分をまな板に滑らせるように包丁を入れると透けて見えるくらいのトマトの皮が取れる。

ハンバーグの付け合わせのじゃがいもはじゃがいもの形が同じな物を選別すると

くし形に切り分けてペティナイフで皮を剥き、角も取りツルンツルンに仕上げる。


豚肉は一本丸ごと。

不必要なロース肉の脂を丁寧にまるで鉋で削ったようにスルリと取っていく。

とんかつにする分と生姜焼き、トンテキにせるのは厚さが違うから切り分けて。

最後に内側に筋切りを三箇所いれる。

ヒレの肉は筋と脂をとにかく念入りに取っていた。


ミンチは肉屋から仕入れた物を自分でもう一度ひいていた。肉屋は均一になってないらしい。

大きなボールに大量のミンチ、卵たくさん、パン粉、塩、胡椒、なんか知らない粉。(香辛料とか乾燥した葉っぱとかあった、たぶん、それ)

たくさんのみじん切りの玉ねぎ。これをネルネル。手に白い脂がつくまで。

手が熱いとミンチの味が変わると冬でも水道で手を冷やしてこねてたっけ。

ひとつ、ひとつ、両手でぱんぱんしながら空気を抜いて形を整える。


えびは冷凍だった。

水の中に入れて解凍すると殻むきをして、背中に包丁を入れて茶色の腸とかを削ぎ取り、尻尾の先を少し切り落とす。くるんとまるまってる所に三箇所切れ込みを入れる。


これはほんの少しの仕込み。

ドミグラスソースは牛骨を割って野菜とオーブンで焼く、それを寸胴鍋にいれてブーケガルニとかいうのと野菜をいれて何時間もことことアクをとりながらダシを取る。

そこから先は良く覚えてないけど、継ぎ足し継ぎ足しして大切にしていたのは覚えてる。


カニクリームコロッケやエビグラタンも作ってた。

小麦粉とバターと牛乳でベシャメルソースを作る。

グラタンには粉チーズしかかけないのが父のこだわりだった。


カレーも作ってたなぁ。

これも仕込みにとても時間がかかる。

ビーフシチューも。




あのね、どれもね、大嫌いだった。

家庭の味じゃ無いもの。

お母さんの作るご飯はプロじゃ無いけど、毎日食べる物は違うんだよね。

実家を離れてから、洋食は食べなかった。

うんざりしてたんだと思う。


祖母の作る煮干しと削りかつおのだしをとったお味噌汁とほかほかのご飯。

しんぶしの煮付け。梅干し。

美味しかったなぁ。



外食はたまにでいい。

ご褒美だからね。

あとはやっぱり、なんでも無いけど、お母さんのご飯がいい。

最近、名古屋飯とか言うけど、味噌カツなんて食べない。

赤だし飲んでる家ない。合わせが多いのだ。

ドテも匂いがすでに無理。

手羽先も少々なら。

ひつまぶしはもう、神宮のお店は味が変わってたし。有名になる前が美味かった。

味噌煮込みうどんくらいかなぁ。

ういろうも鼻水みたいだし。食べる意味がわからない。




父は肉が大嫌いだった。祖父が肉屋をしてた時、一頭の牛を引いて屠殺場まで

連れて行かれたらしい。

その時に、牛が怖がって涙を流して悲しく鳴き声をあげるのを聞いてから

肉か食べられなくなったそうだ。

父の好物は七輪で焼いためざし。納豆。豆腐。祖母の梅干しだった。

ちなみに父の作る梅干しは不味かった。















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