第21話 私と心先生と高野豆腐

「高野豆腐を人間とするじゃん?」

「するじゃん?」

 いつもの居酒屋。

 ちょっと酔ってきたらしい先生は、高野豆腐を使った料理を見つめながらどこかに走り去ろうとする。

 こっちの脳もアルコールで鈍ってきているので、急な加速はやめてほしい。

「ってことはさ、高野豆腐の命も救うべきじゃない?」

「少しお水も飲みましょうか」

「ちょっとくらい付き合ってよー」

 先生は不満気に口を尖らせる。

 まあ、雨水を飲まれるよりはましか。

「わかりました。それで、高野豆腐の命を救うために何をすべきなんですか?」

 こちらが言い終わると同時に、先生は急に仕事モードの顔を作り出す。

「千夏! この子息してない! 急いで気道確保!」

 先生は取り皿に高野豆腐を乗せ、こちらに手渡してくる。

「先生、これ、高野豆腐です!」

 私もよくわからない迫真の演技を見せる。

 なんだこれ。

「高野豆腐も生きてるの! 生きているものを平等に救うのが医者よ!」

「気道、見つかりません!」

「探して! 諦めたらそこで試合終了だよ!」

「はい!」

 と、そんな茶番を繰り広げた数日後。

 いつもの居酒屋のアルコールで気分の良くなってきた私は、この前のノリを思い出す。

「先生! この豆乳プリン、脈がありません!」

 箸休めにと頼んだプリン。

 それを使ってこの前の茶番を再現する。

 まあ、なんだかんだ楽しかったし、またやりたい。

「気分じゃなーい」

 しかし、どうやら先生は気分じゃなかったようで、こちらを見ながらちみちみと厚揚げを口に運ぶ。

「先生! 先生の気道見つかりません!」

「ちょ、や、やめ! 厚揚げとプリン、合わない……」

 先生のお口に豆乳プリンと厚揚げを交互に押し込んであげました。

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