その23 逃走

 やった。とうとう逃げ出してやった。

 わしは夜の道路を歩きながら、そう思った。

 横を高速で車が走っていく。

 あいつらは、儂の財産目当てに「施設」に監禁した。

 施設での生活は、地獄だった。

 外に出ることは認められず、ただ与えられた「餌」を喰わされる日々……人間らしい生活とは程遠いものだった。おそらく非合法な団体が運営していることは、容易に推測できた。

 施設は他にも監禁されている者が多くいるようだったが、接触できた者はごくわずか……彼らも施設での過酷な生活のせいか、大半の精神が崩壊しておりまともな会話にならなかった。

 得られた少ない情報、その中から分かったのは、儂はこのままだと死ぬまでこの施設に監禁されるとのことだった。

 そんな施設に放り込んだ息子夫婦には怒りしかない。大方、あの女がそそのかしたのだろう。儂の家や土地に関心があったのか、その前から度々家に来ていた。

 それにしても、さっきから車がビュンビュンと走っている。もう夜も遅いというのに、活気のある道路もあるものだ。

「見つけました」

 前方に、屈強な体格の若者が現れた。

 施設からの追手おってだろう。儂を捕まえようとしているのだ。

 無線らしき物で仲間を呼んでいるようだ。

 逃げなくては!

 しかし、背後からも他の男たちが迫ってくるのが見えた。

 儂は道路を外れて、脇の山中に入ろうとした。

 しかし、屈強な男たちが儂を取り囲んだ。

「おい、お前ら! こんな卑怯なことをして――」

 最後まで言うことは叶わなかった。

 男の一人が、儂を羽交はがめにした。

「や、やめろ! 儂をまたあの地獄へ連れ戻すつもりか!?」

 儂は苦し紛れに叫んだ。

 酷い。人権などあったものではない。

 またあの施設に監禁されると思うと気が滅入った。

 抵抗する気力もなくしてぐったりした儂を確認して、男は言った。


「高速道路を歩いていた老人を確保しました」


 警察官たちは一仕事終わって、安堵の表情を浮かべた。

 老人はパトカーに乗せられ連れられていく。

「わざわざ高級な介護施設に入れてもらったのに、脱走するなんて……」

「まあ、ボケ老人のことは分からんよ。俺らとは世界が違って見えてるのかもしれん」

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