その12 招厄
その事件が起きたのは、三件目だった。
手口は同じ。年寄りの独り暮らしの家を出掛けている間に白昼堂々と盗みに入る。
なぜかちょうど出掛けている時ばかりで、犯人の姿を見た者は居なかった。
「ええ……盗まれたのは、ほとんどは高価な物ばかりですね」
老人は苦渋に満ちた顔をした。
刑事である私は、盗まれた物の確認をしているところだった。
この事件が老後の独り暮らしに大きな支障をきたすことは間違いないだろう。
「他には、盗まれた物はありませんか?」
私は確認のために聞いた。
「他は……ああ、玄関の招き猫が無くなっていますね。まあ、安物でしたし……」
他に比べれば、大した損害ではないようだった。
ただ、私は少し引っ掛かるものを感じた。
他は持ち運びがしやすく、高価な物ばかりだ。それなのに、持ち運びしづらく、それ程価値のない陶器の置物を持っていくだろうか?
私は刑事課に帰ると、以前の事件の盗まれた物を確認した。
……あった。確かに他の二件でも、招き猫の置物が盗まれていた。
価値は無いが、持っていく必要があった。つまり――
その後、私は再び老人の家を訪れていた。
「はい、確かに最近セールスに来た人に買った物でした」
老人は素直にそう認めた。
もっとも、突然セールスに来たのでその素性は知らないようだった。
「何か……言っていませんでしたか?」
「玄関の良く見える場所に置くと福を招くと……それが盗みに入られたんじゃ、ご
老人は顔をしかめた。
「あの……他にそれと同じ物を買った人をご存じありませんか?」
「ああ、それなら――」
近所に住む知人の老人も買ったと教えてくれた。
その老人が出掛けている最中、盗みに入ったところを張り込んでいた警察が現行犯逮捕した。
招き猫の置物の中からはカメラと盗聴器が見つかった。
それで出掛ける様子を確認してから盗みに入り、痕跡を残さないように持ち帰っていたのだった。
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