第11話 血の繋がりなんて
「たっだいまー。やっぱり、本人じゃないけど真近で見てると自分もあそこでああやるんだと思って緊張するね」
元気良く戻ってきたシーアに、クライン夫妻が近寄っていく。
泣いた後の腫れぼったい目は、彼女が帰ってくる前に収まり、今では鬱屈とした気持ちもなくなっていた。
確かに、いろいろなものが流れ出たみたいだと納得した。
少しだけ笑って、カインはシーアの元へと駆け寄った。
これでまた、もう少しだけ頑張れそうだった。
「お疲れ、シーア。気晴らしにもう少しだけ見て回らないか? まだ、時間はあるだ――」
カインの言葉の途中で、遠くから大きな物音がした。
四人とも、一斉に音がした方に振り向いた。
どこかの出店が壊れたのかと考えていると、音の発生源から怒鳴り声が聞こえてきた。
「おいこら、人様の売りもんに手を出すたぁいい度胸じゃないか!」
「許してくれ! このままじゃ奴がここまで……見逃してくれ!」
主人の怒声に、男も声を荒げて叫んでいた。
その様子から、どうやら食べ物を盗もうとした盗人が主人に見つかったらしい。
盗みを働こうとした男は、頻りに「仕方がなかった」、「食わないと逃げられない」と叫んでいた。
そこに、野次馬が加わり次第に見えなくなってしまった。
騒乱も祭りには付き物だと、人々は出し物を見た気分で、各々祭りを再開し始めた。
辺りの人たちが祭りへと戻る中、カインは男の顔が頭から離れなかった。
(あの盗人、どこかで見た気がするのは気のせいか? いや、あれは――)
どこか見覚えのある風貌がなんなのか。
記憶を辿っている所で、シーアから声をかけられた。
「カイン……さっきの話なんだけど……?」
シーアは今の事件から頭を切り替えて、先ほど最後まで聞けなかった話を訪ねてきた。
「あ……ああ。まだ時間はあるだろうし、もう一回見て回ろうかって言おうとしたんだけど、何だか今の一件で……ね」
「そうだね。何だか冷めちゃったね」
シーアもカインと同じらしく、今の騒動を無視してしまえる出来事として、処理出来ないでいた。
男が叫んでいた中に気になる言葉があった。
〝奴が来る〟
あれは、一体誰を指したものだったのだろうか。
盗人の連れか何かか。
(いや、関係ないだろう)
シーアと同じく、カインも頭を切り替える。
既に、思い出しかけていたことは頭から無くなっていた。
「それなら、そろそろ帰るとしようか。日も暮れてきたことだ。今日は母さんの手料理で祝おうじゃないか。カイン、もちろん君も一緒だぞ」
ゲイルは、家族としてカインに接する。
断る理由など、あるはずもない。
カインはゲイルの提案に黙って頷く。
そうでもしないと、声が震えてしまいそうだったからだ。
「そうと決まれば、今日は一段と腕に縒りをかけて作ってあげないといけないわね」
「ウチも手伝うね。ねねっ、何にしよっかー?」
「やはり、祭りの日にはシチューじゃないか。カインもいることだし、お肉をたくさん入れたやつを一つ頼むよ」
「それ父さんがお肉食べたいだけじゃないの?」
「もうあなたったら、いつまで経っても子供みたいなんだから」
「ゲイルさん、ほどほどでいいですからねっ。この前の量だと俺食べきれないからっ」
「何を言う、カイン。食べきれない分は、私が食べるから安心しなさい。もちろん。お肉を、だがね」
「あなたったら……シーア、お父さんにはお野菜沢山入れてあげましょうね」
「もちろん、了解だよ! お肉はウチが管理します」
シーアとナルの決意に、ゲイルは困った顔をする。
すかさずカインを仲間に引き込もうとするが、カインは相手の戦力を鑑みて苦笑いして首を横に振った。
「カイン……君まで……」
がくりと肩を落とすゲイルを見て三人は笑い、いつしかゲイルも笑っていた。
今晩の夕食の献立を話しながら、四人は帰路に着く。
誰もが楽しく笑いながら。
それはまるで、他からは――本当の家族のように見えたことだろう。
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