第5話「恋人達と過ごす日々②」


 マリとマリアとのデートが終わった翌日、恋人達とのデート二日目は、フレンダと、何故か妹のマチと一緒に“第12魔法都市”福岡博多はかた中洲なかすにある、大型ショッピングセンター、“メガキャナルシティ”へとやって来た。


 “メガキャナルシティ”も、小倉こくらの“ニューチャチャタウン”と同じく、戦前からあったショッピングセンターを、“魔法都市”開発計画の際に復旧、復興したものとなる。



「…それはそれとして、何故マチまでおると?」


なん、お兄ちゃん?私がおったらいけんと?」


「いや、いけんっていうか…、今日は恋人とのデートってことやけん、マチは…、」


「まぁまぁ、いいじゃん、マサト!マチだって、ボク達の家族なんだしさ!仲間外れにしちゃうのは可哀想じゃん?」


「まぁ…、フレンダがそう言うなら、俺は別に構わんっちゃけど…」



 当の恋人であるフレンダがそう言うのなら、俺からは何も言う事は無い。

 無いのだが…、どうにも気不味いというか、やりにくいというか…

 普段のとして、皆と出かける分には何も問題は無いのだが、こと、デートとなると、実の妹がいるというのは何とも複雑と言うか、何と言うか…



 ちなみに、マチは黒のカーディガンに上下紺色の半袖シャツとロングパンツという、全体的に少し暗めのコーディネートに対し、フレンダは薄い青のノースリーブシャツに、白のミニスカート、腰にゼブラ柄のカーディガンを巻いた、明るめでスポーティなスタイルの服装をしていた。

 今日はいつもより少し気温が高めとはいえ、フレンダはノースリーブにミニスカートで寒くないのだろうか、と思ったりもしたが、チラチラ見える健康的な脇と、太過ぎず細過ぎない理想的な太ももと、ボーイッシュなフレンダの見た目もあって、そのスタイルは彼女にはとても似合っていて、大変眼福であった…



「そんなに気負う必要は無いって、マサト!ボクとマサトの仲なんだからさ、デートだけど、デートとは思わず気楽に行こうよ!ね?」



 そんな俺の気持ちを察してか、フレンダがそんな風に言ってくれた。



「普段通り、いつもの感じで!そっちの方がボクも気楽でいいしね!」


「フレンダ…、ああ、分かった。なら、いつも通りの感じで、気楽に行こう!」


「オッケー!というわけで、早速本日のデートプランの発表といきまーす!」



 フレンダからも、マリ達と同様に、デートプランは自分達で考えるから、俺は何もしなくていいと言われていた。

 ただ、一つだけ条件は付けられたが。



「お腹を空かせて来いってことやったけど、スイーツ店巡りとかでもすると?」



 ここ“メガキャナルシティ”は、どちらかと言えば若年じゃくねん層向けの施設が多く入っており、全世界のオシャレなスイーツショップのテナントなんかが数多く入っている。



「んー、それもちょっと興味はあるけど…、今日わざわざ博多はかたまで出てきた理由は…、コレだーっ!!」



 と、説明をされながらエスカレーターを登って行った先に連れて来られたのは、“メガキャナルシティ”最上階にある、“メガラーメンスタジアム”という、全国各地からラーメンの名店が集まっている区画だった。



「え゛っ!?ラーメンスタジアム!?マジでここでいいと!?」


「うん!マチとも話し合ったんだけど、人生で一度は人のお金でラーメン食べ放題みたいなのしてみたいよね、って!」


「しかも!ここなら、全国のラーメンが集まっとるけんね!食べ歩くには持って来いの場所やけん!」


「食べ歩き!?まさかここにある店舗全部巡るつもりか!?」


「勿論!」


「そのために、今朝からなーんも食べとらんけんね!」


「い、いや、しかしデートでラーメン食べ歩きは…、」


「えー?マサトだってラーメン好きでしょ〜?」


「いや、まぁ、嫌いやないけど…、」


「ならいいじゃん!それとも、マサトはスイーツ巡りのが良かった?」



 と、そこで俺は昨日マリアから言われたことを思い出し、フレンダにこう答えた。



「いや、ラーメン巡りでいいよ!

 スイーツ巡りは色々ハードル高いし、俺も気楽な方がデートとして楽しめそうやしな!」


「だよね、だよね!ぶっちゃけ、ボク的には、デートだからって気合入れ過ぎるのはどうかな、ってスタンスなんだよね。だからって、いつも通りっていうのもちょっと違うし、普段だとあんましないことをするくらいがちょうどいいのかな〜って感じで」



 実にフレンダらしい、さっぱりした考え方だ。

 マリもそうだったが、俺にとっては二人とも理想的過ぎる女の子で、彼女達が俺の恋人となってくれたことは、本当に光栄なことだと改めて実感させられた。



「そんなことより二人とも!もうそろそろ“ラースタラーメンスタジアム”の開店時間っちゃ!

 まず最初は人気No.1の元祖豚骨、久留米ラーメンのお店から!お客さんが並び始める前に、早めに並んどかんと!」



 そう言ってマチが急かしてくるため、俺とフレンダは、どちらからともなく両手を繋いで、仲良くオープン前の店の食券機の前に並ぶのだった。





 結論から言って、“ラーメンスタジアム”にある全店舗を回り切ることは出来なかった。

 ラーメンだけを注文すればまだいけたのかもしれないが、ラーメンに餃子ぎょうざは欠かせないし、チャーハンが自慢と聞けば注文したくなるし、テーブルに備え付けの高菜たかながあれば、替え玉して味変として高菜たかなを入れた高菜たかなラーメンにしたくなるし、北海道ラーメンの店でザンギ定食なんて見かければ、そりゃザンギ定食頼むやろ!、…という感じで、ラーメン以外も色々食べ歩きしていれば、いくら育ち盛りとはいえ、三店舗目を食べ終えた時点では限界を迎えてしまった。



「うぷ…っ!ボク、もうお腹いっぱい……!」


「ふぅ…っ、俺もさすがにこれ以上は…、無理……」


「じゃあ、最後はこのトマトラーメンで有名なお店で締めにしよう!ここのラーメンならあっさりしとーらしいけん、きっと大丈夫っちゃ!」



 俺達とほぼ変わらない量食べたハズなのに、まだ余裕そうなマチは、四軒目を指差しながらそんな事を言った。

 そう言えばすっかり忘れていたが、マチはフードファイターも裸足で逃げ出す程の胃袋ブラックホール大食漢で、それでいて太らない体質という、三度の飯が何より大好きという女子の理想とも言える体質をしていた…!



「「いやいやいや!無理無理無理!」」


「えー、どうしてもー!?」


「行くならマチ一人で行ってくれ!金なら払うけん、これ以上俺達を巻き込むな!」


「むー…、それなら仕方が無いな〜…、じゃあ、お兄ちゃん達はどっかその辺で時間潰しとって。私だけでも、“ラースタラーメンスタジアム”全制覇してくるけん!あ、お金は出さんでいいよ、こっからはデートやなくて、私自身のやけんね…」



 そう言って俺達に背を向けて、四軒目の店舗に入っていくマチは、まるで歴戦の勇者であるかのような貫禄を身にまとっていた…



「…一応、マチはボク達に気を遣ってくれたのかな……?」



 そんなマチの背中を見送りながら、フレンダがポツリとそう言った。



「ボクは、皆と一緒がいいから、マチとデートすることを了承したのに」



 どうやら、マチが恋人同士で過ごす時間を作るために、気を遣ってくれたんだろうと考えているようだ。



「いや〜…、あれは……、」



<うっひょー!!期間限定メガ特大盛りトマトラーメン!?トマトが通常の三倍に麺も通常の三倍!?なるほど!赤いから三倍なんか!(?)こんなんやって食い尽くしてるしかないっちゃろもんっ!!



「…ガチで食いたいだけやと思えぞ……」


「あ…、あはは……」



 マチの真意は何処にあれ、俺とフレンダはお言葉に甘えて、一足早く“ラーメンスタジアム”を後にしたのだった。





 “ラーメンスタジアム”を後にした俺達は、さすがにしばらくは歩けそうに無かったので、一つ下の階に降りたところにあるベンチで休憩し、他愛の無い話をしながら、腹が落ち着くまで時間を潰した。


 ある程度楽になってきたところへ、“ラーメンスタジアム”にある全店舗のラーメンというラーメンを食い尽くして満足したマチが、エスカレーターを降りてくるのが見えたので合流した。



「あれ?お兄ちゃん達、どっか行かんかったと?」


「さすがにあんだけ食ってすぐには動けんて…」


「デートとか関係なくマサトの前でリバースするのだけは、ドMなボクでもさすがに勘弁だからね…」


「ふ〜ん…?ま、いっか。

 それで、この後はどうしよっか?朝お兄ちゃんが言っとったスイーツ巡りでもする?」


「「断固拒否っ!」」


「あははは!冗談っちゃ、冗談!

 そんじゃ〜、一応予定通りゲーセンに寄ろっか?」



 “ラーメンスタジアム”のすぐ下の階は、ホームセンターやシネコン、ゲームセンターなどのテナントがある階となっており、マチはゲームセンターのある方を指差しながらそう言った。



「うん、そうしよう、そうしよう!」



 フレンダもノリノリで、俺の腕を掴みながら、ベンチから立ち上がった。

 俺は昨日に続いてまたゲームセンターかと内心思ったが、その思いを知ってか知らずか、フレンダは俺に向かってこんな風に言った。



「マリ達から聞いたよ!昨日、マサト大活躍だったって!」


「え?」


「マリちゃんにマイミちゃんの、マリアちゃんにクロメロちゃんのぬいぐるみを取ってあげたっちゃろ?」



 どうやら、二人は昨日のことをマリ達から聞いているらしい。

 まぁ、マリ達が隠しておく気が無いなら、俺も隠す理由は無いのでこう答えた。



「ああ、映画の半券キャンペーンでクレーンゲームが一回無料やったけん、その流れでな」


「いいなー!ボクもマサトにぬいぐるみ取って欲しいなー!」



 ぎゅぅ!と自身の豊満な胸を、俺の腕に押し付けながら、上目遣いで見上げてくるフレンダが反則的に可愛かった。



「私も、欲しいぬいぐるみがあるっちゃん!お兄ちゃん、取ってもらっていい?」



 そして、反対側からはマチが、やはりその豊満な胸を俺の腕に押し付けながら、上目遣いで見上げてくる姿が、とてもいとおしく…、……!

 …って、…いかんいかん!マチは双子の妹だぞ!?そんなよこしまな考えを抱くのはダメだ…っ!!



「わっ、分かった、分かった!!ゲーセン行こう!ちなみに、二人もマイミちゃんのぬいぐるみが欲しいと?」



 そんな邪念を振り払うため、俺は頭を左右に振って、クレーンゲームの話に集中した。



「ううん、ボク達は、」


「「“こんにちキャッティちゃん”のぬいぐるみが欲しいっ!」っちゃ!」



 “こんにちキャッティ”とは、マイミちゃんなどを展開するキャラクターブランドによる、ネコをモチーフとしたキャラクターだ。

 キャッティには、家族だったり恋人だったり、有名人とのコラボキャラクターだったりと様々な派生キャラクターが存在するが、今回フレンダが欲しいと言ってきたのは、メインキャラクターである白猫のキャッティの巨大ぬいぐるみで、一方のマチが欲しがっているのは、暗黒大陸で闇堕ちしたという謎の設定のブラックキャッティだった。



「いや、暗黒大陸で闇堕ちって何だよ!?“こんにちキャッティ”の世界観ってそんなにダークなのか!?」


「ううん、ほのぼのゆるふわ日常系作品っちゃ」


「そんな世界観に闇堕ち設定とか持ち込むなよ!」


「そんなこと言われてもね〜…」


「ねぇねぇ、それよりマサト!どうなの?取れそう?」



 俺達はゲームセンターのクレーンゲームコーナーへ移動し、実際にそれらの景品の入った筐体へとやって来た。

 筐体は昨日、マリとマリアのためにぬいぐるみを取った筐体と全く同じ形式のもので、大きさも同程度のぬいぐるみだった。

 後はアームの設定次第だが、流石に初めてくるゲームセンターだから、その辺は何度かやってみないとクセとかが分からないからな…



「ま、とりあえずやってみるか」



 俺はお金をチャージしたパスカードを筐体にかざし、早速アームを操作し始めた。

 最初に狙うのはフレンダご希望の、白猫のキャッティちゃんからだ。


 観察はすでに済ませており、今回は商品タグにアームを引っ掛けて取る方向でアーム位置を調整し、キャッチのボタンを押した。


 結論から言って、アームの力はかなり弱く設定されていたが、アームの先端は狙い通りに商品タグの輪っかに入り、ぬいぐるみは宙吊り状態で持ち上げられ、あっさりと取出口に落ちた。



「おおっ!?さっすが、マサト!一撃じゃんっ!!」


「相変わらず、無駄にクレーンゲームの才能だけはあるよねぇ、お兄ちゃん」


「無駄ではないやろ、おかげでこうしてフレンダに喜んでもらえたんやけん」


「えっへへ〜♪ありがとね、マサト♪」



 フレンダは、大きなキャッティちゃんぬいぐるみをぎゅぅっと抱きしめて、満面の笑みを浮かべていた。

 この笑顔が見られただけでも、クレーンゲームが得意で良かったと心の底から思えた。



「じゃあ、次は私のブラックキャッティちゃんだね!ちょっと店員さん探して呼んでくる!」



 そう言ってマチは、すぐにゲームセンターの女性スタッフを連れてきて、筐体奥に用意されていたブラックキャッティちゃんのぬいぐるみをセットしてもらい(その際、マチが、「お姉さん、出来るだけ簡単に取れるような位置に置いてもらっていいですか〜♪」と、可愛らしい甘えた猫なで声で頼んでおり、女性スタッフさんは、「仕方が無いな〜♪」と頬を赤らめながらセッティングしていた)、再び筐体にパスカードをかざした。


 今回は、マチのの効果か、確かにアームが引っかかりやすい位置と体勢で置かれており、さらにいつの間に調整していたのか、アームの強度も先程よりかなり強めに設定されていて、ブラックキャッティちゃんをがっしりと三方向から掴んだアームは、安定感をたもったままブラックキャッティちゃんを取出口まで運び、あっさりと一発で取れてしまったのだ!!



「やったー!ありがと、お兄ちゃんっ!!それに、さっきの店員さんもありがとー♪ちゅっ♥」



 マチは、ブラックキャッティちゃんぬいぐるみを抱きしめながら、俺と、背後で様子をうかがっていた女性スタッフさんに向かって投げキッスをした。

 すると、女性スタッフさんは、急に心臓を抑え始めて、そのまま床に膝から崩れ落ちていた。



「出たよ、【お姉さんキラー】のマチ…!」


「え?なんそれ…?」



 フレンダの口から聞き慣れない単語が出てきたので、尋ねると、どうやらマチは歳上のお姉さん達から好かれるタイプのようで、これまでもたくさんの中学、高校の先輩女子達や、女性教師、はたまた魔法師育成学園OBの方々から告白されてきたらしく、それで付いた異名が【お姉さんキラー】、だという。



「え…?そんなことになっとったん?俺、初耳なんやけど…?」


「そういや、話したこと無かったっけ?」


「何?なんの話しよったと?」



 と、先程の女性スタッフの介抱から戻って来たマチが、俺達の会話に混ざってきた。



「いや、相変わらずマチは【お姉さんキラー】やってるな〜って話」


「えー?その話、お兄ちゃんにもしたとー?恥ずかしいせん、黙っとったのにー」


「の割には、さっきの店員さんにはめっちゃ色仕掛けしてたよね?」


「色仕掛けはしとらんっちゃろ、ただ、心の底から丁寧にしただけやし」


「まぁ…、確かに非合法なことをやったわけやないしな…」


「でしょ?お金だって、ちゃーんと払ったわけやし、それに、あそこまでお膳立てしてくれても、取れん人には取れんわけやし、ぬいぐるみを取れたんはお兄ちゃんの実力なわけやけんね」


「いや〜、別に悪いとは言ってないよ?ただ、兄妹きょうだいそろって、女たらしだな〜って思っただけ」


「いや、別に俺はたらし取らんぞ!?」


「それに、私の場合は歳上限定やし?」


「あははは!ま、それはそれとして!次はプリクラ撮ろうよ!あ!あっちにはガシャポンのコーナーもあるじゃん!あっちにも行ってみよ!」



 と、フレンダは大きなキャッティちゃんぬいぐるみを抱えたまま走り出した。



「あ、おい、フレンダ!」


「あ、待ってよフレちゃん!ぬいぐるみ、袋に入れんでいいと!?汚れちゃうよ!?」



 それから俺達は、プリクラをしたり、ガシャポンで遊んだりしてゲームセンターを満喫し、二日目のデートも無事に楽しく過ごしたのだった。

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