第14話

「というわけで、ユニカ。自撮り塔ってほんとに建てる必要あるの?」


「はい。正式名称は《広域統治広報装置:プロジェクタブル・インプレッション・タワー》、略称PITです」


「ピット!?語感が完全に罠か穴なんだが!?もっとこう、イケてる名称にできなかったの!?」


「イケてる基準が不明確です。PITは銀河統治システムの“統一仕様”であり、変更はできません」


「統一……銀河の誰かがこのネーミング通したってマジか……」


「PITは“顔認証型感情拡散機能”を備えており、統治者の表情をリアルタイムで惑星外に伝達します」


「顔芸で惑星を支配する時代っておかしくない!?!?」


「ご安心くださいナオト様。ベストアングルはAIが自動補正し、“印象値最適化フィルター”を通過します」


「だからその補正が信頼スコア下がるって話だっただろうがああああ!」


「はい。“1.2%までの補正なら偽装とみなされません”」


「けっこうギリギリだなおい!」


と、そこにカレンが割り込んできた。しかも片手には謎のミラーガジェットを持ってる。


「ナオト、ほら、こっち見て。ちょっと髪直すだけでも見違えるから」


「やめろ!その母親ポジションみたいな優しさは俺に効く!」


「ほら、いつも言ってんじゃん。“印象ってのは8割情報、2割詐欺”って。だったらその2割、活かさない手はないでしょ?」


「うわ、正論かつ詐欺師マインド!でも納得しちゃうぅ!!」


「ナオト様。PITの建設候補地を提示してください。現在、村の中央広場、西丘陵、旧施設屋上の3つが有力です」


俺はホログラムマップに目をやった。──っていうか、毎度のことながらこのマップUI、ゲーム感すごい。拡大縮小自由、角度変更自由。銀河文明の“遊び心”どこで培われたのか聞きたい。


「……村の中央だな。ど真ん中にドーンと“皇帝の顔タワー”立てよう。どうせなら潔くいこうぜ」


「了解。座標確定。《PIT》建設モジュール、展開開始」


その瞬間、またもドローン部隊が上空から降下。地面に刺さる杭のようなユニットが次々に連結され、展開していく。


「おぉぉお!?なんかいきなりガンダムの基地建設みたいな音してる!!」


「ナオト兄貴、あの上のスフィアっぽい部分が“投影コア”っぽいな!きっとあれが巨大ホログラム出すんだ!」


「俺の顔が空に浮くってことかよ!?」


「銀河連邦の拠点評価において、ホログラフィック自己投影率は重要項目です」


──やっぱこの銀河、何もかも“見せ方”でできてるな。


そして十分後、中央広場には、塔が完成していた。

高さおよそ三十メートル。球体ユニットを載せた白銀のスパイラル構造。まるで芸術作品みたいだ。


「……やば。見た目だけで評価高そう」


「はい、実際、“デザイン評価”により文化的指数が+12%向上しました」


「見た目ボーナスあるんかい!」


その瞬間──塔の上部が光り、俺の顔が空に投影された。


《統治者ナオト、現在活動中。位置:惑星ユグドラ/拠点コードα-001》


「ひぎゃあああああああ!?しゃべってないのに顔だけ!?無音の顔面だけ浮いてるのめっちゃ怖いぞこれ!」


「ご安心ください。現在は“プレゼン待機モード”です。“感情波形”のみを外部送信中です」


「感情波形ってなに送られてんの!?俺のこの“やばい感”そのまま外にバラ撒かれてるの!?」


「はい。“混乱+困惑+微笑混じりの諦念”という組み合わせで登録されました」


「やめて!!そんな感情タグ公開しないで!!銀河中に俺のメンタルぶちまけないで!!」


そこへ村の子どもたちが走ってきて、空を指差した。


「うわー!ナオトお兄ちゃんが空にいるー!」


「顔、でかい!」


「なんかちょっと笑ってるー!」


「……おい、これ恥ずかしさにより信用スコア下がったりしないよな?」


「逆に、“親しみスコア”が上昇しています」


「えっ!?この顔で!?嘘やろ!?」


「人間の“恥じらい”は、銀河標準で“善性フラグメント”として認識されます。“皇帝にも人間味がある”という感覚が、統治スコアに良い影響を与えます」


──銀河、どうやら“親しみ皇帝”が流行らしい。


そのとき。


突如、塔のホログラムが切り替わった。俺の顔が消え、代わりに“通信リクエスト”のアラートが表示される。


「な、なんだこれ?」


「ナオト様。これは……惑星外からの通信要請です。“外部統治者ネットワーク”に登録されたことにより、他の皇帝候補から“初期接触”が届きました」


「他の皇帝!?まさか、ライバル!?」


「はい。“ゾル=ヴァシル候補者群”より、同盟または対抗を提案する意思表示です。──現在、接続候補者数:5123名」


「多っっっ!!!そんなに皇帝予備軍いんのかよこの銀河!!」


「安心してください。接続中、最も“ユニークID変動値”が高かったのはナオト様です。“予測不能皇帝”として注目されています」


「おい、なんか変なあだ名つけられてない!?予測不能って!?」


「事実です。統治回答時の“寝起き哲学解答”が原因です」


「うわああああああああ!!あの回答、銀河に広まってんの!?やめて!!恥ずか死ぬ!!」


「むしろ“人間発想特化AI混成候補”として研究対象になっています。“論理非整合型突破者”のフラグが立ちました」


「もはや褒めてるのか馬鹿にしてるのか分からねぇえええ!!」


──だが、事態はまだ終わっていなかった。


「ナオト様。さらに特異な通信があります。──“転送指定なし、送信者不明、暗号化不可能”」


「……おい、それはさすがに怪しいやつじゃ……」


「はい。“通常の皇帝候補ネットワーク”とは別系統です。──“既知の銀河構造に属さない情報源”と推定されます」


「銀河の外!?」


──そして、俺の頭に響く声。


《よくぞ、統治に手を伸ばしたな。ナオト・カンザキ。では次の扉を開こうか──“現実編集権”の扉を》


「ちょ、お前誰ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

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