3-2.決意
「私が、人間の子!?」
ステラは思わず目を見張る。
「そう、人間と魔女の間に産まれた子。ただそれだけのこと」
物憂げな表情を変えることなく、ヴァニタスは続ける。
「世界はそれを是としなかったけれどね」
「私が、人間の血を引いてる……」
ああ、と母は肯定する。
「そんな……」
人間……ステラにとって人間は、悪しき生物であった。
昔話に出てくる非道な生き物で、魔女を貶めようとする最低な者たちだった。
その人間の血が、ステラに通っている。
「信じられないよ」
「よくよく考えれば分かる話だ。ジークの存在が大きいからね」
ジーク、と零す。
「魔女に男は居ない」
ステラは気づかされる。そう、魔女に男は居ない。にもかかわらず、ジークは男である。であれば、魔女ではない。この世界に瓜二つの存在、魔女と人間。魔女でないのならば、それは人間であった。
「ジークは、お前の父と親友だった。だからこそ、こちらについてきてまで、お前を守ろうとしたんだ」
「そうだよ、ジークは優しくて、私をいつも守ってくれて……人間みたいな、そんなこわい奴じゃ……」
「そういう人間も居るってことだ。お前の父も、善い人間だった」
ステラの言葉を、ヴァニタスが遮って続ける。
「だが、それだけだ。他の人間はステラの知る通り醜悪なものだよ」
悔しそうな声色で、噛みしめながら言葉を吐く。
「なにしろ、家に火を放つくらいだ。お前たち家族を殺すために」
拳を握り締め、血が滲んでいく。ステラは、言葉を飲み込んだ。
「私は、お前しか救うことが出来なかった。お前の母に託されて、自身の無力さを痛感しながら大陸へと帰った。ジークと共に、お前を育てるために」
「そう、だったんだ……」
ステラは、こんがらがった頭でそれを理解しようとする。
「人間の子は、嫌かい?」
「わかんない。ジークは良い人だったけど、お父さんとお母さんを殺したのも、人間なんでしょ。嫌とか、そういう以前に、わかんないよ」
そうかい、と俯く。
「だから、拒絶もしない。理解できるまで、私の中では魔女も人間も同じ」
毅然とした心で、ヴァニタスへと向き合う。
「お前は、良い子に育ったね」
そう言って母は優しく笑った。
「だが、その考えは稀有なものだ。昔話でしたように、人間と魔女は根底で分かり合えないもの。だからこそ、お前はこの森に住むことになった」
「どういう事?」
ステラが問う。
「私たちが大陸に帰ったところに待っていたのは、そういった者たちだった。魔女裁判を行うような過激派が幹部だからね。ピグリティアも、一応関係している」
魔女裁判。聞き慣れない単語に、ステラは首を傾げ問いを重ねる。
「規律を乱した魔女を罰する裁判だ。魔女王と、その直属の方々が判決を下す。私とお前は死ぬ運命にあった。その間に入ってくれたのが、ジークだ。説得を受け入れられ、森から出ないことを条件に生かされたんだ」
すまない、と謝っていた。
「そんな、だったらどうして出られたの?」
「効力自体は存在しない。つまるところ、バレなければよかった。だけれど……」
言葉に詰まる。また口を開く。
「約定にはもう一つ、条件がある。万が一、約定を破棄する行為が確認できた場合、私はステラの保護権を失う。お前は、私の元を離れなければいけなくなる」
あまりに突然のことで、頭がいっぱいになる。
「つまり、ピグリティアにバレてしまった以上、私の保護権は消える」
「なんで……」
「人間の血が混ざった子に、前例がないからだ。管理するつもりなんだろうね」
苦しそうに落とす。重い言葉が飛んでいる。
「勝手だよ……」
ステラの頭に、一つの疑念が上がる。
「母さんは、私の母親を辞めたくて、わざと」
「それは違う。と言っても、嘘に聞こえてしまうか……」
憂いと哀しみに満ちた表情で言葉を繋げる。
「許可するべきではなかった。私が、折れなければよかっただけ」
「だが、考えてしまったんだ。お前の母は、外の世界が好きだった。あいつの好きだった外を、ただ一度だけでも見せてあげられないかと……」
声が弱々しくなっていく。
「偶然が重なってしまった。私がもっと情報をしっかり集めていれば、見つかることは無かったというのに、すまない……」
うなだれてしまった母を見て、ステラは自身の気持ちを熟慮する。
「わかった」
少し経ち、発せられたステラの声に顔を上げる。
「私、外の世界に行くよ」
「……そうか」
止めることなく、母は目を伏す。ステラは言葉を継いだ。
「でも、これは自分の意思。約定も運命も知らないし私には関係ない。自分の目で見て、感じて、それで何が正しいか……自分で決めたいから外に出る」
母は、その場にへたり込んでしまった。
「本当に、強くなって……」
亡き女の影をステラに重ね、ヴァニタスは涙を流した。
「母さんは悪くないよ。ピグリティアだって悪くないし、きっ誰も悪くない。だから私は従わない。理不尽に振り回されるなんて御免だから。だから、自分の心に従って、学校に通ってみるよ」
しゃがみ込んで母を抱きしめ、ステラは優しくそう言った。
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