小さくなっちゃった!
バァン! ──と、エヴァが思案に耽ったその瞬間、扉が勢いよく開かれた。
「アタシの家にお邪魔してるのは誰だいッ!?」
強い怒号とともに小屋の中に入ってきたのは、真っ黒いローブに全身を包み込んだ、いかにも『物語に出てくる魔女』といった出で立ちの老婆だった。皺の集まった顔と尖った鷲鼻がその風貌をより助長している。腰が曲がっていて威厳はないが、魔女としてはかえって『らしい』ともいえるだろう。
「ヒィーッ!? ごごご、ごめんなさーい! わたしがやりましたっ! 悪気はなかったんですーっ!」
「なんだい、いきなり自白かい! アンタ、なにをやったんだい! えぇ!?」
眉間に皺を寄せた老婆は声の大きさと同じくらいに凄みがあり、その気迫に負けてあることないことをやったことにしてしまいそうだったが、エヴァはそれよりも視線が定まらないことに気がついた。
──体が、小さくなっている。
エヴァの身体は、みるみるうちに小さくなっていく。するりするりと衣擦れの音を立てながら、オーダーメイドのドレスをすり抜け落ち、エヴァはとうとう手乗りサイズの小鳥と同じくらいの大きさになってしまった。
美少女としてすっぽんぽんだけは避けたい、と胸元に隠していた手ぬぐいを一所懸命に体へと巻き付けて簡易的なドレスを一瞬の間に作り上げた。
「なな、な……何するのよ、魔女さん! ちょっとクッキーを食べたくらいでこんなこと……っ! いくらなんでも酷いわ! 人権侵害よ!」
「はぁ~っ! アンタ、盗人猛々しいねぇ! それにしても、ふうん……アンタ、これは……どこかで盗みでもしたのかい?」
魔女が指さしたのは、エヴァが一心不乱にすっぽんぽんの体に巻き付けた手ぬぐい。それはエヴァがこの世に生を受けてから、今まで肌身離さず持っていたものだった。端の方に王家の紋章が精緻に縫い付けられており、有識者の目に入れば、王家の者であるという証明としても有効な代物だ。
「ちょっと、盗んだなんて失礼なこと言わないで! わたしは正真正銘、アルビオン王国の王女よ!」
「ほう、そうかい。だったらアンタは『あの第三王女』ってわけだね」
「えっ? そうだけど……どうして、そんなこと……まさか、わたしの美しさが魔女さんたちの間でそれほどまでに有名に?」
「自信が凄いねぇ。まぁ、王家には少しだけツテがあるのさ。さて、と……」
次の瞬間、魔女はエヴァごと手ぬぐいをつまみ上げ、ひょいと鳥カゴの中へ。ぱちん、と鍵がかかる。
「ちょ、ちょっと!?」
「安心しな、すぐ美味しいごはん作ってやるよ。まるまるとしてた方がいいからね……ふふふ」
やっぱり太らせて食べる系!?
「うぅ……魔女は美少女を好んで食べるって、本当だったんだわ。物語の中でよくあるもの……!」
とりあえずカゴの中で膝を抱える。
頼れるのは――黙って立ってるあの少年だけ。
「ねぇ! あなた! わたしを助けてくれない!? ちょっとでいいの! カギだけ! カギをなんとかして!」
少年はエヴァの叫ぶような懇願にも、ほんの僅かに首を傾げただけだった。しかしそれを見て、エヴァは希望を見出した。反応があるのなら――と。
「動けーッ! こんな美少女がこんなにオネガイしてるんだから、そこは動いてくれてもいいじゃないのよ! そこでわたしが食べられるのを黙って見ているつもり!? そういう趣味じゃないんでしょ!? いいの? このまま可愛い子を見殺しにしたら大きくなったときにゼッタイ後悔するわよ! 動くなら今! そう、今なの! あなたの運命を変える時がきたのよ!」
「…………」
怒りに任せた怒涛の説得にも少年はやはり押し黙ったままだったが――けれど、逡巡するようにして目を伏せた後、ローブから銀の腕をさらけ出した。
「やった! はやく鍵を――」
鍵を探すように頼もうとした直後、少年は銀色の手を鳥カゴに近づけた。突然のことにエヴァは言葉を失ったが、その瞬間に鳥カゴの鉄網は本来の出入り口を関係なく、熱せられた鉄棒のようにぐにゃりと変形して、ぽっかりと風穴が開いてしまった。何か魔法的な力がこもっているかのようでもあったが、しかし紛れもなく、ただの力づくで鉄網が捻じ曲がっていた。
「と、とってもたくましいのね、あなた……」
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