第6話 まだ名前のない感情(澪サイド)



最近、ひよりが近い。

いや、物理的にじゃなくて、なんていうか──「ひよりがひよりじゃない感じ」。


前はもっと、静かで、遠くて、わたしが声をかけないと来なかったのに。

今は、気づくと隣にいる。

いつも目が合ってる。

笑ってるけど、なんか刺さるみたいな、あの目。


……べつに、嫌じゃないんだけど。


この前も、髪を触られたとき、

「やめて」って言えばよかったのに、言わなかった。

触れられた手があったかくて、

背中に当たってた太ももも、なんか……変な感じで。


でも、その“変な感じ”が、わたしは少しだけ好きだった。


「澪ってさ、もっと自分のこと大事にした方がいいよ」


前に、ひよりがそんなことを言っていた。

どういう意味か、いまはちょっとだけわかる。


わたしは、無自覚なんだと思う。

人の気持ちとか、好意とか。

たぶん、そういうのに鈍い。


でも、ひよりの触り方とか、

あの目の奥の温度とか、

ぜんぶが「わたしにだけ向いてる」って思ったら、

なんか──ちょっと、ズルい。


わたしのこと、好きなのかな。

でも、それって「友達として」ってやつ?

それとも……。


──名前をつけるのが怖い。

けど、わたしはもう、ひよりを見すぎてる。

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