セクハラ護衛騎士と婚約者の観察日記
buchi
第1話 婚約者に不満アリ(ジョージ編)
ジョージは侯爵家の嫡子である。
当然、爵位と家名にふさわしく、プライドと自負に満ち溢れていた。特に、この次のシーズンから、いよいよ王都にある学園に入るのだ。ジョージは張り切っていた。
勉強しに入学する訳ではない。
彼のような身分の人間が学園に行くのは、高貴な身分の、裕福な貴族の子弟との交友を深めるためだ。
自室のテーブルの上に、学生名簿を取り寄せ、ジョージは考えを巡らせていた。
「うーむ。今年の入学予定者は、ハズレだな」
男性側はジョージが、女性側は彼の婚約者で、隣接する領地の伯爵家の娘、ハンナが筆頭である。
「女性側は伯爵家の娘が筆頭か」
彼はいかにも軽蔑したように、紙を指ではじいた。
より一層の高位貴族との縁を求めるジョージにとって、同学年に公爵家とかせめて侯爵家とか、あるいは宰相や将軍の子弟とか、なんだったら王家の誰かとかが在籍していないのは、痛恨の極みであった。
婚約者のハンナの名前のところで、ちょっとばかりジョージは眉をしかめた。
確かにハンナの実家は古くから続く名家である。
領地も隣り合っていて、結婚後もハンナも実家に頻繁に帰ることができるだろう。両家とも難のつけようがない一家だ。
だが、なんとなく気が乗らないのは、2年ほど前、ハンナの館を訪れた時の記憶があるからだった。
ハンナは地味な少女だった。
顔立ちなどはむしろ整っている方だと感じたが、そんなことよりジョージにとってショックだったのは、その館のみすぼらしさだった。
確かによく手入れされていて、高価な実用品や品の良い装飾品も揃っている。
しかし、なんというか地味なのだ。
そもそも家の大きさが違う。
ここからほど近いあたりに、国内でも有数の大商人が所有する城館があるのだが、ジョージはそれくらいの城を想像していた。
裕福な伯爵家と聞いていたので、期待に胸ふくらませて訪れたのだ。
しかし現実の伯爵一家の邸宅は、二階建てで、広さも裕福な農民並みの造りだった。これでは、邸宅と呼ぶのもどうかと思う。
幼い弟たちもいて、とにかく貴族らしくない。こう言った幼い子どもは、別室で乳母にでも任せておけばいいのに。ジョージはイライラした。
伯母だという女も出てきた。品のある女性だが、つましいなりをしている。
派手さなどはカケラもない。婚期を逃して実家で侍女みたいな仕事をしている女なのだろうか。
全く想像していたのと違って、ジョージは心が醒めていくのを感じた。
裕福で由緒ある一家と聞いていたのに。こんなものか。
これならジョージの家の方がよほど立派だ。父は苦労して婚約までこぎつけたと言っていたが、そんな値打ちはないのではないか。
その時、彫刻のある立派なテーブルから、ひらりともう一枚の紙が落ちた。
なんの気なしに拾うと、それは在学生の名簿だった。
「公爵令嬢ヒルダ嬢……ほう? 王弟殿下の一人娘か」
王弟殿下の一人娘。その言葉は野心家のジョージの心に刺さった。
自分の家は侯爵家。領地の立地的に言って、貧乏貴族ではないが、今後大きな収入の増加は見込めない。そうかといって、文官として王家に貢献することも抵抗があった。
だが公爵家は!
王家そのものである。領土は広大で、その当主ともなれば、誰もが
ジョージは一瞬夢を見た。
「だめだな。何を考えてるんだ、俺は。どうせ婚約者が決まっているだろう、こんな令嬢には」
自分にも婚約者がいる。
隣の領地の長女ハンナだ。
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