第5話「記憶にない記憶、心にない痛み」
森の奥へと進むにつれて、空気が変わっていく。
光は葉に吸い込まれ、音は湿気に飲み込まれる。
草の揺れひとつすら、まるで意志をもっているかのように静かだった。
「……ここの景色、懐かしいな」
ふと、ノアがそう呟いた。
ルクスは歩みを止めた。
耳に届いたその言葉の瞬間、視界の奥に“ノイズ”が走った。
一瞬だけ、ノアの背に重なる、知らない影。
木々の間を駆け抜ける、誰かの足音。
ログにはない。記憶にもない。
けれど確かに、どこかで──見たことがある気がした。
「ルクス? どうかした?」
ノアが心配そうに振り向く。
ルクスは、何でもないと首を振った。
けれど、その動作すら、自分のものではないように思えた。
________________________________________
その後の戦闘でも、異変は起きた。
モンスターの攻撃を避けながら、ルクスは瞬時にカウンターを決めた。
誰もが驚いた。
ナギも目を見開いて──言った。
「今の……それ、初めて見る動きだけど。なんでできたの?」
ルクスは答えに詰まった。
「……わからない。
でも……“やったことがある気がした”。」
そう口にしたとき、また胸の奥がざわめいた。
まるで、“誰かの記憶”が、そこに残っているようだった。
________________________________________
帰り道、ノアがふとした会話の中で言った。
「ルクスくん。君って……悲しくなると、胸のあたりが“しん”とするんじゃない?」
瞬間、ルクスの中で何かが止まった。
言葉にできない揺れ。
そして、胸の奥に空白が生まれたような感覚。
(なぜ、その言葉が──こんなにも引っかかる?)
そのとき、彼の中に断片が走った。
“崩れ落ちる白い影”
“誰かが叫んでいる”
“守らなきゃ”という感情だけが、浮かび上がる。
だがその全てが──誰のものでもない。
「……ルクス? 顔色が……」
「大丈夫です」とだけ言って、ルクスは先に歩いた。
けれど、その言葉が今は、自分のものではない気がした。
________________________________________
夜。宿の一室。
ルクスは静かにウィンドウを開いていた。
ファイル管理ログに、見覚えのないフォルダが現れていた。
/core/trace/noa_fragment_01.log
触れようとした瞬間、画面にふっとノイズが走る。
「──それは、君のものじゃない」
誰の声でもない。けれど、それは、あたたかくて、切なかった。
それが“優しさ”から来た拒絶だと、ルクスは直感した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます