第6話 夜の狭間で、君と出会った

 それは、戦の前夜だった。


 城の窓から月明かりが差し込む。兵たちは剣を研ぎ、祈りを捧げ、勇者である俺――朝倉涼太もまた、寝台の上で目を閉じていた。


 そして、気づけばそこは、どこでもない場所にいた。


 白く霞む世界。空も地もない。ただ、柔らかな靄の中に、ひとつだけ人影があった。


 黒い外套。ぼさぼさの髪。気だるげな目。けれど、なぜか“知っている”気がした。


「……誰?」


 俺が問うと、そいつは振り返った。声は落ち着いていた。


「さあ、俺も聞きたいな。ここは……夢の中か?」


「たぶん、そうだろうな。現実じゃない。でも、妙にリアルだ」


 会話は不自然なく続いた。まるで旧知の友人と話すような、奇妙な安心感があった。


「お前、どこから来た?」


「日本。東京。そっちは?」


「同じだよ。……やっぱり、そうか」


 心臓が跳ねた。


(やっぱり……この人も、転生者なんだ)


 相手も驚いたように、軽く目を見開いた。


「……お前、もしかして、勇者か?」


「……ああ。で、お前は……」


 一瞬、沈黙が流れた。


 だが、言葉は出てこなかった。お互い、直感で理解してしまっていた。


「……魔王、か?」


「かもな。知らないうちに、そんな肩書きになってた」


 その言葉に、俺はうまく笑えなかった。


 敵同士。なのに、目の前のこいつは、俺と同じ“巻き込まれた人間”で、“選ばれてしまった側”だった。


「なあ。……帰れると思うか?」


「わからない。でも、帰りたいとは思わなくなってきた」


 魔王の声は静かだった。


「ただ、もう誰かを殺すのは嫌だな。そう思ってる」


 俺はそれを聞いて、胸が少しだけ軽くなった。


「……俺もだ」


 言葉に出すのは怖かった。でも、伝えたかった。たとえ、この夢が覚めてしまっても。


 そして、靄が濃くなっていく。


「おい……名前、教えてくれよ」


「お前こそ」


 二人同時に言って、同時に笑った。


「朝倉、涼太」


「俺は……」


 その瞬間、夢は途切れた。

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