第11話
「ああくそがッ!」
バトルロープを二本同時にどしんどしんと叩きつけ、怒りの気勢を上げる山永。いわゆるスラムと言われるバトルロープの運動方法だ。両手で同時に力いっぱい地面に叩きつける運動である。背筋にとてもよく効く。
『今日どしたの?』
「中隊長に
『どゆこと?』
山永の機嫌を察知したヒマリが見かねて尋ねる。
「……オイが派遣用の訓練ば中隊の要員候補にさせよったろ?その話が連隊本部の3科に聞かれて呼び出された。」
『うん』
「3科の運用訓練幹部Aどのから直々に、勝手なことするなちご指導賜ったっさ。」
『……なんで怒られるの?訓練してただけでしょ』
びたーーーん!と山永。
「3中だけ勝手に訓練したら他中隊との練度管理ができんそうな。要するに抜け駆けしとるっち見られたったい。」
各中隊が派遣候補者出したあと、みっちり派遣前訓練は予定されていた。それの足並みを乱すようなことをするなと3科の運幹は言ったわけである。
「そい、だけ、なら、まだわかるッッ!」
びたん、びたん、びたーーん!!と口とバトルロープがシンクロする。
「あん中隊長、言うに事欠いてオイと岡部2尉が勝手にやり出したとか言ってハシゴ外しよった!!」
ばびたーーーん!!と渾身のスラム。山永の力だとあのバトルロープさえ引きちぎりそうだ。
『……ガチクズじゃん。』
「やろぉ?」
ふうふう言いながらそれでも憤怒冷めやらぬ山永。岡部2尉は案の定訓練計画は丸投げだったがきちんと後方支援はしてくれた。訓練場を確保したり、武器の使用申請、特にキソーやエグゾの使用調整や、営内者の食事を必要とあれば早飯にしてくれたり。そういう点で山永は岡部2尉のことを信頼するようになっている。翻って中隊長はあっさり部下たちを売り3科の運幹に私は指示してないなどと宣った訳で、憤懣やるかたない山永になったとしても仕方ない話である。
「ようやくウエポンSOPが形になってきたけん、簡単な警備要領に入ろうかち思っとったとこにあん仕打ち。マジで許さんぞあの扇風機おじさん。」
『扇風機おじさん?』
「あいつ終礼ん訓示んとき扇風機んごた右に左に首ば振るったい。あれの同期の人が言いよった」
山永がここまで指揮官をディスるのは珍しい。言いながらもまたびたびたと小さいスラムを続ける。
『……処分されるの?』
「知らん!クビにすんならクビにせぇ!」
びたたん!怒りのせいか今日はレップのパワーもペースも勢いが止まらない。
「あーばってんクビになるなら一発ぶん殴ってやめちゃろ!」
『それだけはダメ!!』
「……」
めちゃめちゃ強めに怒られた。ヒマリのこの怒り方は初めてだ。山永は少し驚いた。
『ダメだからね!ぜったい!約束して!』
「ん、おう……」
『やくそく!!』
「わかった、約束する」
思わず手を止め、タブを眺める彼。
『よろしい。一時の感情に流されたら全部無くすんだからね』
「まぁ、そうやなぁ」
まるで長く付き合ってる彼女の様だ。真摯に人間の人生に向き合おうとしているように見える。
「確かに、ここまで来たら派遣も行ってみたかしな。ワイの言うとおりた、ヒマリ」
『いい女でしょ』
「自分で言ったら台無しやがな」
ようやく気が晴れたか、山永の声色が軽くなる。確かに、いい女かもなと彼は思った。
「まあ、もうLP作らんでいいち思うと気楽やな。あとは被教育者として列兵になっとけばよか」
教官ともなると様々な事に気を使わなければならない。訓練時間の確保、場所の確保、人員の確保、必要な器資材に訓練要領、はては基幹要員使った訓練展示まで。逆に言えばやりがいはある。山永はこういう教育をめんどくさがっていたが。
『きっといい経験になるよ』
「そうやの」
なんだか話していると気が落ち着くと彼は思った。話してみてよかったなとも。
「ま、明日も頑張るわ……」
自衛官の報われない日々は続く。
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