禁忌指定能力者 ~【人間使い】は自堕落に暮らしたい~

村山朱一

第1話 【人間使い】は引退したい

 超能力がある。

 【炎使い】は炎を使う。

 【氷使い】は氷を自在に生み出し、操る。

 【鳥使い】とか【時使い】とかいうやばい奴らもいて、やりあったことはあるが、かなり面倒だった。



「……で、そうくれば……【人間使い】が何をするか、分かるか?」



 夜のファミレス。喫煙席。

 俺は、対面の席に座る黒服に尋ねた。

 体格の良い大柄な男だったが、声はひどく小さい。

 俺の問いかけに、黒服はただ首を振ることしかできない。


「文字通り、使のさ……って、あぁ。申し訳ない。

 今、ところだったな」




 黒服には、もう口がなかった。



 のっぺらぼう。

 顔面が、綺麗につるりとした状態になっている。

 眼孔はなく、鼻腔もなく、口はおろか毛穴までもすっきりだ。


 俺がした。


「俺の能力はを好きにできる。

 身体の構造を変えたり、思考を捻じ曲げたり。あぁでも、制限だってあるんだ。

 相手が人間じゃなくなったら意味がなくなる。もう人間じゃないものを、【人間使い】は動かせない」


 例えば……と。

 俺は、自分の髪の毛を【人間使い】で伸ばし、黒服の手に触れさせる。

 次の瞬間。


「こんな風に」


 黒服の身体が歪に変貌する。


 腕が六対十二本に。

 眼球が三対六つに。

 足は内側に折りたたまれ、黒服という服を、内側に取り込む。


 出来上がったのは、無数の人間の腕を持つ肉のボールだ。

 心臓が脈打つ音だけが聞こえる、肉の塊だ。



なったら戻せない」 



 俺は席を立った。

 ファミレスの中は、そのような肉塊であふれていた。

 防弾チョッキを着た軍人。炎をくすぶらせ続けるスーツの肉塊、鳥に突っつかれる犬のような形状の人外。


 全て、禁忌指定能力者を襲った、国連のエージェントだ。


「さて」


 ファミレスの窓を見る。

 退屈そうな面の男、俺が映っている。


「次のは、どうしようか――あぁ、可愛い子が良いなぁ」





 男の身体が変わる。

 長く黒い髪の、十二歳くらいの少女。

 清楚そうで、白い肌で、柔らかくて、瞳だけが鋭い。

 着ている服が野暮ったいので、俺は、すぐ服屋に向かうことを決めた。


 黒服の胸の通信機に、声だけ投げる。



【人間使い】は引退するぞ、追う奴は全員肉の塊にする――――そう伝えておけ」

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