第6話 入谷明日香

 ――翌日


 しゅうは再び迎えに来てくれた岸本萌音の車に乗って、町外れの丘に延びる道路まで向かった。昨日と同じセーシェルの美しい青空と青い海、緑の樹々が優しく柊たちを包んでいる。

 

「着いたわよ、ここで降りましょう」


 萌音は車を道路わきに留めるとサングラスを外して柊に言った。爽やかな風が吹き抜ける。


 道路は少し高い位置にある。そこから二段ほど低いところに空き地があり、粗末なサッカーゴールとグラウンドがあった。


 何人かの子供達が、キャッキャッと声を上げながらボールを追いかけている。再びサングラスをかけた萌音がその子達を指さして柊に説明をしてくれた。柊は風になびく彼女の髪と服を一度見てから、グランドの方へ目を向けた。


「あれが明日香がやっているサッカー教室よ。毎週土曜日の午前中にここでやっているの。明日香は子供達に人気なのよ」


 よく見ると6歳から13歳くらいまでのバラエティに富んだ子供達が駆け回っており、そこに交じって一人の女性が長い髪をなびかせて一緒に走り回っている。


(明日香……)


 そこには確かに、子供達と駆け回るサッカーの妖精がいた。


 柊は言葉に詰まり、その白い服を着た妖精の姿はぼやけて、見えなくなってしまった。


「良かった。また会えた……」


 柊が感涙にむせんでいると、萌音が柊の様子に気づきキョトンとした顔で言った。


「柊君、もしかして泣いてんの?」

「い、いや。花粉症なんで……」


「ぷぷっ花粉症か。そう言う事にしてあげてもいいけど、そんなに明日香に会いたかったの?」

「いや、色々複雑で……」

「ふーん。いいね、そう言うの」


 萌音は察してくれて、それ以上は柊に突っ込まないでいてくれた。

 柊は、涙を拭きとると、もう一度明日香の事をしっかりと見つめた。

 不意に、十年前の風景が柊の頭の中で重なった。


(そうだ。明日香と最初に出会った時もこんな感じだったっけな?)


 柊の記憶は十年前に飛んだ。

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