第48話 抜けぬ刃

 沈黙が続いていた。

 観客の誰もが息を潜め、ただ二人の男のあいだに流れる“気”だけが、場を支配していた。


 剛も、望月も——刀は鞘に納めたまま。


 抜こうと思えば、抜ける。

 だが、動けばその瞬間にすべてが終わる。

 それが、互いにわかっていた。


 抜けば勝てるかもしれない。

 だが、抜いた時点で“何か”を失う。


 それは命か、信念か、それともただの“静けさ”か。


 剛は指に汗が滲むのを感じていた。

 鞘に添えた右手が、わずかに震えている。


 望月はまったく動かない。

 だがその沈黙のなかに、“いつでも斬れる”という確信が満ちていた。


 (このまま、どこまで立てる)


 剛は問う。

 ただ在ることだけで、相手の“刃”を受け止められるのか。


 望月もまた、同じ問いを胸に抱いていた。

 (抜かせるな。崩せ)

 剛の気に触れ、己の間に引き込め。


 ふたりは、立ったまま動けなかった。

 抜けぬのではない。抜いてしまえば、それは“終わる”からだ。


 制空圏は完全に重なっていた。

 それでも尚、刃は鞘の中。


 その張り詰めた均衡が、かえって一撃よりも強い“戦い”を生み出していた。


 動けぬまま、両者はただ——“立ち続けていた”。

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