第48話 抜けぬ刃
沈黙が続いていた。
観客の誰もが息を潜め、ただ二人の男のあいだに流れる“気”だけが、場を支配していた。
剛も、望月も——刀は鞘に納めたまま。
抜こうと思えば、抜ける。
だが、動けばその瞬間にすべてが終わる。
それが、互いにわかっていた。
抜けば勝てるかもしれない。
だが、抜いた時点で“何か”を失う。
それは命か、信念か、それともただの“静けさ”か。
剛は指に汗が滲むのを感じていた。
鞘に添えた右手が、わずかに震えている。
望月はまったく動かない。
だがその沈黙のなかに、“いつでも斬れる”という確信が満ちていた。
(このまま、どこまで立てる)
剛は問う。
ただ在ることだけで、相手の“刃”を受け止められるのか。
望月もまた、同じ問いを胸に抱いていた。
(抜かせるな。崩せ)
剛の気に触れ、己の間に引き込め。
ふたりは、立ったまま動けなかった。
抜けぬのではない。抜いてしまえば、それは“終わる”からだ。
制空圏は完全に重なっていた。
それでも尚、刃は鞘の中。
その張り詰めた均衡が、かえって一撃よりも強い“戦い”を生み出していた。
動けぬまま、両者はただ——“立ち続けていた”。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます