ラビちゃん戦争、勃発

リョキ

第一章:班長の勧誘作戦

休日の午後、リビング。


 真壁汰生は、コーヒーを啜りながらソファに沈んでいた。

 一方、隣では空蝉光がスマホを片手に、なにやら機嫌よく操作している。


 真壁はチラリと視線を向けた。


 そこには、例の——


 ラビちゃん育成アプリ

 が、にぎやかに稼働していた。


「ん〜〜ラビちゃん、今日もかわいいねぇ」

「……」


 真壁は黙ってコーヒーを飲んだ。


 すると、空蝉がふいにこちらを向いた。


「ねぇ、真壁」


「なに」


「そろそろ、ラビちゃん育成、手伝ってくれてもよくない?」


「……」


 真壁は、無表情で空蝉を見た。

 そして、静かに言った。


「合理性がない」


「ひどくない!?」


 空蝉が盛大に目を見開く。


「癒しは人間にとって必要不可欠なものだよ? 精神衛生の維持に貢献するんだよ? ほら、合理性バリバリじゃない?」


「お前が癒されているだけだろ」


「……」


 空蝉は、ぷいっとそっぽを向いた。


 そして、ぼそりと呟く。


「真壁、ひとりでもラビちゃん育てるもん……」


(……拗ねた)


 真壁は、無言でコーヒーをもう一口飲んだ。


 空蝉は、スマホを見ながら、

 肩を落とし、わざとらしくため息をつく。


 そしてまたぼそり。


「お前とラビちゃん育てられたら、楽しいと思ったのになぁ……」


(……)


 真壁は、コーヒーカップを置いた。

 そして、わずかに目を伏せて小さく息を吐いた。


「……手伝う」


「ほんと!?」


 空蝉がぱっと顔を輝かせる。


(……こういう顔されると、断れないんだよな)


 真壁は静かに、スマホを手に取った。


 それが、あの戦争の始まりだとは知らずに——。


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