第45話 臆病な暴君
客間にて、リーナとレイの前で俺は自分が暴君だと宣言した。それから俺は、自分が偽物だと疑われぬよう、ひと時も気を抜くことなく本物を演じ続けた。
――俺はこの戦いに勝たないと永遠のループに囚われることになる。
俺とレイは互いに全く同じスタンスを取った。リーナがレイカに襲われそうになっているところを偶然見かけて、暴君の力で助けに入った。そのすぐ後にレイが(レイ視点の場合俺が)部屋に入ってきた。そして自分と同じ役職『暴君』だと嘘を吐く目の前にいる人狼(俺、もしくはレイ)にリーナが襲われないように、片時も離れずリーナの傍にいる、というものだ。
俺もレイも必死になって自分の信憑性を訴え、リーナについて回った。一方リーナは「もう勘弁してくれ」と疲労を顔と態度に浮かべていた。嘘を吐き続け、演じ続ける俺にも疲労は溜まっていった。
それに比べてレイだけはいつもより意気揚々としていた。
そうして時が流れ、夕会議の時間になる。残りの生存者4人。俺とレイとリーナ、そしてゲッカが会議室の席に着いた。
――――結果として、会議ではレイが処刑されることになった。
自分が『暴君』だと名乗る俺とレイの信用勝負。その戦いに俺が勝ち、レイは敗北した。
俺の勝因は二つ。
一つ目は朝の会議で俺とレイカの対立関係を作ったこと。レイカが人狼であることは俺とレイの二人の証言によって確定された。そんなレイカと俺は、朝会議の時に誰にでもわかるほどに溝を深めた。それがひとつ功を為した。あれほど対立したふうに見せておけば人狼同士の仲間とは思われにくい。
二つ目は、ゲームが始まってすぐの昼時間に俺がやった手回しの成果だ。まず俺は昼時間にゲッカに声を掛け、何気ない話をして仲を深めた。その後、「お前を信用する代わりに俺のことを少しだけ打ち明ける」と話を持ち掛けた。もちろん根拠もなく信用すると言ったわけではなく、ゲッカと会話を交えた時の感触や今までの振る舞い等から、てきとうに根拠をでっち上げた。
そして俺は、「自分は村人の重要な役職」だと打ち明けた。当然これは嘘で、俺の役職は人狼だ。今回のゲームで村人の重要な役職と言ったら占い師か暴君の二つ。「嘘をついていないのならイズミは占い師か暴君だ」とゲッカは思っただろう。
さらに、ここに偶然が重なって会議中、ゲッカが自分は占い師だと宣言してきた。つまりゲッカから見たら、「イズミが嘘をついていないのならイズミは暴君だ」となる。
そこで後に俺が暴君だと正体を明かしたらゲッカは、「イズミは暴君に違いない」と錯覚する。過去の俺の匂わせと今の正体を明かしたことの辻褄が合って、俺が嘘をついている可能性が頭から遠退く。俺の発言の信憑性が高まる。
こうして俺はゲッカから信用を得ることができた。信用を得ることで勝利を掴める人狼ゲームで、俺は投票の貴重な1票分の有利を得た。
レイの敗因も二つある。
一つ目はレイがリーナにだけ紅茶を淹れたことだ。
会議の中で、そもそも何故リーナは客間で眠りこけてしまったのかという話になった。不用心に客間で堂々と眠ってしまったことがリーナが襲われることに繋がった直接的な原因だからだ。
結論、レイが不自然にもリーナにのみ差し出した紅茶の件を俺が持ち出し、レイに疑いが向くことになった。紅茶の中に睡眠薬でも仕込まれていたのではないかと、俺の知る真実をさも憶測で述べるような口調で話した。リーナに睡眠薬の入った紅茶を飲ませて眠らせて、その隙に殺害しようとしたのではないか、というのが俺の主張だった。
睡眠薬のことなど知るはずのないレイは当然否定したが、リーナが「そういえば紅茶を飲んだすぐ後に眠くなったかも」と、本当のことを話すことで俺の主張を後押しして、レイへの嫌疑がより確固たるものになった。
そして、レイの敗因の二つ目は――――――リーナへの恋心を打ち明けられない度胸のなさ、だ。
これが最大の敗因とも言える。リーナに紅茶を淹れたのも、おそらくリーナがレイカに襲われているときに都合よく駆け付けられたのも、リーナへの特別な思いが根底にある。きっと暴君のレイはずっとリーナのことを心配して気にかけていたから、リーナのピンチに駆けつけることができた。そこまではよかった。レイが人狼のレイカを殺すことであと少しで発動されそうだったレイドパーティが阻止されてゲームは続行し、村人の勝機がちらついた。
だが、レイは自分の気持ちを皆の前で明かすことができなかった故に、勝機を逃した。リーナへの思いを話せば紅茶をリーナにだけ入れたことや、リーナが襲われそうになっていた時に駆け付けることができたのも説明がつく。自分の疑いを晴らすだけではなく、レイは俺より優位に立てたかもしれない。
村人側の切り札、レイという臆病な暴君は自分の恋心を打ち明ける勇猛さがなかったが故に、村人の支持を得られず処刑されるに至った。
投票が終わる。
レイは泣くわけでも怒るわけでもなく、ただ放心していた。自分の死をなんとなく悟っていた。されど、取り乱して暴れるようなことはしない。
食事を終える。
食事に含まれた睡眠薬が処刑される誰かの体内に回り始めたであろう頃、一人の少年が椅子から転げ落ちて地面に倒れた。力なく開いた口からは涎が垂れる。目はほとんど閉じているが、瞼の奥からわずかに白目が垣間見えるほどには開いている。
レイが死んだ。レイが人狼ならこのゲームは村人の勝利で幕を閉じる――――――だが、当然ゲームは終わらない。
俺が人狼だからだ。
そして、この時点で俺の、人狼の勝ちは確定する。
「ゲームが、終わった感じはしないな………………」
ゲッカが呟く。
「ええぇ……、ていうことは………………」
リーナが困惑と焦りを浮かべて俺の方に視線を移す。
俺はリーナの目を見て答えた。
「ああ、終わらないよ。いや、終わらせる………………人狼は俺だ」
「――ッ!! リーナ逃げろ!!!」
ゲッカが反射的に声を上げる。席を立って俺から距離を置く二人。
残りの生存者は俺を含めて三人。俺があと一人殺せば人狼の勝利確定イベント、『レイドパーティ』が始まる。あと一人殺すだけ。俺の勝ちは決まったようなものだ。
村人がこの状況から勝てる手段はひとつ。ついさっき始まった夜時間の間、俺に殺されずに俺から逃げ延びること。村人は俺が人狼だということは知った。あとはゲッカとリーナの両方が明日の朝まで生き延び、朝会議の投票で俺を処刑する。村人が勝ちを望める唯一の道。ゲッカはそのわずかな希望に賭けた。
――――俺はその希望を喰らう。
俺は全身を獣の姿に変え、部屋を出ようと扉に手を掛けたゲッカの元に一瞬で駆け寄った。
腕を振り、人狼の爪でゲッカの首を刎ねた――――と思ったが、刎ねたのは腕だった。俺の爪が首を掠める瞬間、ゲッカは咄嗟に腕で受け止めようとした。
ゲッカは絶叫を押し殺してその場にうずくまる。両腕の、肘から先を失った状態で。
綺麗な切断面から絶え間なく溢れ出る。
俺は長い爪をうずくまるゲッカの頭に突き刺して、すぐに楽にした。
真っ赤に染まった爪を抜く。体を震わせて怯えるリーナと目が合った。それとほぼ同時に、部屋の照明が真っ赤に染まる。城内に耳障りなサイレンの音が響き始めた。
この現象は一度経験したことがある――――レイドパーティが発動した。
俺は右腕以外は人狼の姿を解き、元の人間の姿に戻る。そして、怯えるリーナに近づく。追い詰めるように。
「やめて! 来ないで!!」
震えが混じっていたが、それでも勇ましい声で俺を牽制した。眉を寄せて俺を睨みつける。リーナは殺されることではなく、もっと別の何かに怯えているようだった。
レイカの言葉を思い出した。リーナは、レイカがまだ生きていた頃の日常を求めている。思い出に縋っている、と。
おそらくリーナは、レイカと共に過ごしたこの城で、繰り返す時の中に閉じこもっているのだろう。
「怖いのか? 夢から覚めるのが」
「――ッ! まだ…………終わらせない……」
俺の言葉に図星を突かれたように俯くリーナ。俺を睨みつけて威圧していた視線も下を向く。
「俺たちはお前の我儘に付き合うつもりはないから、ここで終わらせる」
俺は右腕を構えてリーナに一歩近づく。
「――ッ! 待って!! まだ………………もう、現実は見たくないの………………おねがいやめて……」
消え入るような声で懇願する。その声はどことなくレイカに似ていた。顔は見えないが、さっきまでの威圧的な表情からはかけ離れたものになっていると察した。
「ここで、退くわけにはいかないんだよ」
俺は、獣の右腕をリーナに振り下ろした。
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