人型ロボアニメで爆死する自称エリート、竜型ロボに乗って真のエリートになる
大小判
爆死(二回目)の危機、迫る
唐突だが、俺は異世界転生した。
その経緯に関しては割とどうでもいい話なのでざっくり説明するけど、どうもガス爆発に巻き込まれたっぽい。
町中を歩いてて、なんか変な臭いがするなぁって思ってたら、次の瞬間に俺の近くで爆発が起きて吹っ飛ばされて、気が付けば異世界に転生していた。
(で、問題はこの世界がどんなところかって話な訳だけど……)
この世界に転生して5年。一人で歩き回れるようになり、何とかこの世界の言語も理解できるようになってきてから、出歩ける範囲で色々と見て回ったんだけど、どうもこの世界は科学分野が進歩した世界らしい。
(異世界って言うと、中世ファンタジーな世界観を想像してたんだけどな)
前世ではアニメとか漫画とかで、異世界転生物っていうジャンルが人気を博していて、その手の作品は大体が中世ヨーロッパをモデルにしたような世界観だった。剣と魔法があり、モンスターが跋扈する的なやつ。
それに引き換え、俺が転生したこの世界はSFファンタジーを思わせる場所だ。家の扉は全てスライド式の自動ドア。画面は液晶じゃなくてホログラム。外に出ればタイヤの無い車が走り回ってるし、空を見上げれば半透明の青いガラスみたいなので覆われている。
(俺の生まれたこの家は、どことなく古そうで小奇麗な感じはしないけど、それでも設備は前世よりもハイテクなんだよな)
いずれにせよ、これ自体はとても喜ばしいことだと思う。
科学文明を享受してきた現代人として、いきなり中世の世界に放り込まれるってのは耐えられそうにない。特に俺はウォシュレットが無いと生きていけない派なんだ。
そう言う意味で、ハイテク文明を築いているこの異世界に転生できたこと自体はラッキーだった。幸か不幸か、前世の俺は天涯孤独で、死んで悲しませるような相手もいないしな。
だから俺は気を取り直して、第二の人生を謳歌しよう……そう思ってたんだけど。
「もうあなたとは離婚よっ!」
夜中に喉が渇いて水を飲みに一階に降りた時に、両親が修羅場を展開しているのを見て、第二の人生もそう簡単じゃないって思い知らされた。
二人が喧嘩している理由に関しては詳しく聞けていないけど、どうも今世の父さんの仕事が上手くいっていないらしい。その事でここ最近、両親は毎日のように喧嘩をしている。
「ま、待ってくれ!
「知らないわよ! この家庭の中にいたんじゃ、私の人生が滅茶苦茶になっちゃうじゃない!」
あまりにとんでもない事態になっていて、俺は仲裁に割り込むことが出来なかった。
情けない話だけど、仲裁できる自信もなかったんだ。そんな風に俺が二の足を踏んでいる内に、修羅場はどんどん加速していく。
「そもそも、あなたが悪いんじゃない! 全然仕事が取れなくて工場は赤字続き! このまま私まで巻き添えで貧乏暮らしなんて、絶対に嫌よ!」
「そ、そんなことを言わないでくれ……! 来月までには、何とか仕事を取ってくるから……!」
「信じられるわけないでしょ!」
何とか母さんに思い止まってもらおうと必死に訴えかける父さんだけど、それを振り払うかのようにテーブルを強く叩いて母さんは叫ぶ。
「そんなに信じてほしいって言うんなら、まずはヴァルキリアと同じくらい凄いゴーレムを作ってから言いなさいよっ!」
その言葉を聞いて、俺の頭の中に洪水のような情報が流れ込んでくるような感覚に陥った。
ヴァルキリア……ゴーレム……そして衿人という、他の誰でもない俺自身の名前。それらの単語と、突如として蘇ってきた前世の記憶が結び付き、俺が一体何者に転生してしまったのかを、今になってようやく理解した。
(俺って……【裂空のヴァルキリア】に出てくる、
=====
ロボットアニメの代表的な死に方って言ったら、爆死だと思う。
画的に派手だし、ロボット内部のエネルギーが引火して爆発っていうのは設定的に整合性が取れてるから、ロボが大破したらとりあえず爆発するっていうのは大抵のアニメで行われている描写な訳だが、【裂空のヴァルキリア】というタイトルのロボットアニメも例外じゃなかった。
(何なら、他の誰でもない俺自身が、【裂空のヴァルキリア】における爆死したキャラ第一号だ……)
【裂空のヴァルキリア】……長いので【裂リア】と呼ぶが、この作品の特徴はゴーレムと呼ばれる人型ロボが活躍する世界を舞台とした、ハーレム作品である。
あらすじを簡単に説明すると、とある理由から女性しか操縦できない国内最強のゴーレム、ヴァルキリアを男でありながら訳あって所持し、しかも女性と同様に操ることが出来る主人公、
(物語が始まったら始まったで、あまりにも簡単に大勢の美少女から好かれるから、作品自体の人気がある半面、主人公は割と嫌われてたけど……正直、今の俺からすればどうでもいい。好きなだけハーレム作れって感じだ)
俺にとって最大の問題は物語の冒頭……士官学園の入学試験で起きた事件にある。
この世界ではどこの国でも徴兵制が存在し、全ての子供は中学校を卒業すれば三年間、各地の士官学園で兵士になるための訓練を受ける。主人公も徴兵制に従って試験を受けに行ったんだけど……そこら辺の詳しい説明は、機会があればしよう。
(問題は士官学園に入学する際に行われる適性試験……
試験内容はシンプルに、受験生がゴーレムを操作してどんな適性があるかを測る試験なんだけど、そこでゴーレムに乗るために歩き出した主人公の誠也を突き飛ばし、先んじてゴーレムに搭乗するキャラクター……それが俺こと、犬噛衿人である。
突然突き飛ばされたことで、誠也はもちろん文句をぶつけるわけなんだけど、その時に犬噛衿人が吐いたセリフが、次の通りである。
『うるせぇんだよ、凡人。俺は軍上層部の高官になりてぇんだ。この試験で試験管に俺のエリートっぷりを真っ先に見せつければ、後に続く他の雑魚共の印象が薄れるからな。お前らは後ろで指を咥えながら、俺がどれだけ優秀なのかを見てな』
とまぁ、こんなことを言いながら意気揚々とゴーレムに乗り、空に向かってテイクオフをしたわけだが……その直後に事件が起きる。
(モンスターの群れが、試験会場を襲撃してきたんだ)
ロボアニメでモンスターというのは珍しいと思うけど、ドラゴンやゴブリンみたいな分かりやすいのじゃない。そういうのはあくまで神話上の存在とされていて、実在はしないのだ。
ではこの世界のモンスターは何かって言うと、宇宙から襲来してきた形容しがたい姿をした化け物、言うなればエイリアンって奴である。
この世界では人間と敵対する宇宙生命体をモンスターと呼び、ゴーレムはそのモンスターと戦うために生み出された兵器ってわけだ。
(そのモンスターたちが街全体を覆うバリアを突破し、試験中の
ここまで言えば分かるだろう……犬噛衿人というキャラクターは、いきなり現れたかと思えば主人公を突き飛ばして悪びれもせず見下し、名乗りもせずに聞かれてもいない目標を語り出し、如何にも自分はエリートですってことを言いながらも、それから一分も経たない内に爆死するという、まるでお手本のようなかませ犬っぷりでファンに忘れがたいインパクトを与えたキャラクターなのだ。
ちなみに細かい設定は、原作者がファンからの質問を受けて名前だけ公開された。多分、ちゃんとした設定とかロクに考えてなかったんだと思う。
(しかもその後に、誠也がヴァルキリアを操縦してモンスター相手に無双し始めるから、もう目も当てられない状況に……)
そんな原作者公認の、自称エリートのかませ犬……犬嚙衿人に俺は転生をしてしまったらしい。
=====
「もういい! とにかく別れてもらうから! 離婚届は後で送るわ!」
「ま、待ってくれ! おぉいっ!」
蘇った記憶に悶絶しそうになっていると、母さんは大きな声で叫んで話し合いを無理矢理中断し、財布や携帯が入っていると思わしきバッグを肩に下げて、足音を荒げながら玄関から家を出ていく。
父さんはその後を必死に追いかけるが、玄関を出た辺りで盛大に転び、遠ざかっていく母さんの背中に手を伸ばして見送るしかできなかった。
「……父さん」
「え、衿人……ゴメンな、起こしちゃったか?」
見ていられなくて声をかけた俺に、父さんは疲れ切り、絶望し切っていた表情を無理矢理笑顔に変える。
それはまるで、子供を不安がらせちゃいけないと、自分の悲しみを必死に押し殺しているみたいで、とても痛々しかった。
(やっぱりこの人、とんだお人好しだ)
これまでの言動からも察せられると思うけど、母さんは人の親として良い人とは言えない。
経済的な不安があっただろうから、ある程度仕方ないと思うけど、家を空ける時間が多く、家族と接するところはあんまり見なかったし、俺のことはそっちのけにしている印象は強かった。
そんな中、普段の仕事に加えて、ほぼ一人で家事と育児をこなしていたのが、他の誰でもない父さんである。
前世の記憶を引き継いだまま異世界転移をし、まともに動くことも出来ず、言語も常識も分からない……そんな俺にとって、愛情を持って傍にいてくれる父さんが、どれだけ心強い存在だったことか。
(原作の
一体何を思って歪んだエリート思想に取りつかれたのか、どうして軍の高官を目指すようになったのか、今となっては知りようもないことだ。
ただ少なくとも俺は、自分の事よりも息子のことを優先しようとする、お人好しの父親のことを見捨てることが出来そうになかった。
「大丈夫だよ、父さん」
今度は俺の方が、父さんを安心させるように笑みを浮かべる。
この世界が【裂リア】の世界だと分かった今、父さんが置かれている状況について大体の察しがついた。
父さんは何を隠そう、ゴーレムの製造を請け負っている町工場の長で、軍の主力として採用されているゴーレムなんかも手掛けてたんだけど、恐らくヴァルキリアの登場で経営が悪化したのだ。
(ヴァルキリアの製造は、原作でも登場する大企業が独占していたはずだ。その結果、父さんの工場で製造されていた主力ゴーレムの発注数が激減した……ってところか)
原作の描写でも、軍の主力ゴーレムはヴァルキリアに置き換わった……みたいな一文があったはずだ。
その事に加えて、父さんの工場が経営難となっているのを考慮すれば、俺の推察は間違っていないと思う。
問題の解決のために一体何をするべきか……それはこれから実態調査と分析が必要だけど、これからこの世界で起こる問題やら徴兵制やらも踏まえれば、未来の爆死回避をするために一つだけ、俺が絶対にすべき事がある。
「俺がテストパイロットになって、父さんの工場のゴーレムが凄いってアピールする。そうすれば、また仕事が増えるはずだ」
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