第1話
軽音楽部は、今日は体育館を使って練習してもいいという許可が下りたため、体育館のステージで、気の済むまで練習をしていた。
「大樹、お前の歌やっぱいいな!」
ボーカルの木場大樹(こば たいき)に向けて、ギターの志登悠馬(しと ゆうま)が言った。
「今日は声の調子がいいからね」
「おーまえはほんっとに、謙虚だよなー」
僕は自分のギターの音を確認しながら、その会話に耳を傾けていた。
「西川、お前のギターもいいじゃねえか!ギター同士、やりあおうぜ!」
突然僕に話を振られ、集中していた僕は「ほえ?」と、情けない声を出してしまった。
「…やりあうって何をさ」
苦笑いしながら、僕は言った。
「いやー…何をだろうな!」
志登は、大きな声で笑いながら、正面を向いた。もうすぐ、文化祭。今度歌うのは3曲で、今練習している曲と、現存する、自分たちの好きな曲。あともう一曲。その曲は、自分たちのオリジナル曲だ。
「さあ、頑張って間に合わせようぜ!」
あと3ヵ月。僕らは、練習に戻った。
「じゃーまたなー」
練習後、三人でゲーセンやらファストフード店やらに行って、駅で二人と別れて、僕は家に帰った。都会と比べたら少ない、電車の本数。僕は、外の景色を見ながら、どんな曲を作るんだろうかと、考えながら帰った。
家に着くと、家族はみんないて、「もうすぐ飯やかい、はよ風呂入ってきねー」と、台所の方から言われた。風呂に入って、リビングに行くと、弟も、両親も、食事の準備をしていた。
「今日はなにしたん、部活」
地元のローカル番組が流れているテレビを見ながら、父は僕に、そう聞いてきた。
「今日は体育館が使えたかい、体育館で練習した」
「文化祭、見に行くかいね」
そう、今度の文化祭は、両親も来る。だから、集大成を、最高のステージを見せたい。3人とも、それで気合が入っていた。
「オリジナル曲もあるかい、楽しみにしちょってよ」
僕がそういうと、両親は頷いてくれた。
ご飯が食べ終わると、僕は三人のグループラインで通話を始めた。
「さっ、やりましょうかね、作曲」
作詞作曲を僕たちでする、初めてする取り組みだ。いつも通り、どんな曲にするか、誰に伝えたいか、音程はどんなのがいいかなど、いろんな話をしながら、各々作業をしていた。
「なあ、ところでよ西川。お前、和谷って覚えちょらん?」
作業をしていた木場から、聞いたことのある名前が聞こえた。
和谷紫保、僕らの元同級生だ。
「和谷がどしたん」
僕が聞くと、木場は「いや…」と、少し間を開けてから、こう言った。
「…最近、和谷を見たってやつがいるんだよ」
…そんなわけはない、と、言いたかった。けど、同時に言いたくもなかった。和谷は、去年、死んでいる。インターネットで活動していた、若くして人気のあった和谷妃花(かずたに ひめか)は、所属していた事務所からの無理難題なほどの過剰なスケジュールと、マネージャーによる「こなせないと、お前は終わるぞ」という圧力に耐えられず、事務所を抜けようとしたが、それすらも許されず、結果、自殺した。和谷は、僕の大切な人だった。だから、事務所を訴えようとした。でも、事務所は「学校生活によるストレス」ということで、学校側を陥れた。
「和谷は、死んだじゃねえか」
僕は、そうだろうと言わんばかりに、木場に言った。でも、それに答えたのは、志登だった。
「それがさ、俺らも今日、和谷を見たんだよ」
…見た?和谷を?
「…お前ら、たぶん幻覚だよ。ほら、作業戻ろうぜ」
僕がそういうと、「まあ、そうだよなー」と言って、木場も志登も、作業に戻った。
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