第7話 シレーヌ

 目が覚めると、少女の顔がドアップで見える。反射的に飛び起き、距離を取る。


「おはよう。いえ、こんばんわかしら?」

「・・・ずっと僕を見張っていたのか?」

「ええ、そうよ。眠ってしまったあなたを放置して行く訳には行かないでしょう? だから、別に見張っていた訳じゃ無いわ。守っていたのよ」

「僕は守られるほど弱くない」


 実際、この辺の魔物であれば、例え無防備に寝ていたとしても、自動的に張られた防御魔法で防ぐ事が出来る。いや、聖女の近くでは魔法が消えるんだったか。


「ちっ、危険なのはお前のせいじゃ無いか」

「あら、失礼ね。きちんとバリアを張ってあるわよ」


 そう言われて見ると、周囲数メートルが薄い膜で覆われていた。僕にも使う事が出来ない、高度な結界だろう。


「邪魔だ。消せ」

「そうね。もうすぐ暗くなると思うけど、街に戻るの?」


 当初の予定では、暗くなってから闇魔法で自身を覆い、空から侵入するつもりだった。だけど、聖女に見つかった上、僕が魔王だと自白してしまっている。恐らく、子供の戯言だと思って衛兵に通報しなかったんだろうけど。


「別に、あなたが魔王だと信じてないわけじゃ無いわよ?」

「・・・まさか、思考を読めるのか?」

「ううん。あなたの表情が、そう言っている様に見えただけ。そう言えば、私の自己紹介がまだだったわよね? 私の名前はシレーヌ。貴族じゃ無いからセカンドネームは無いわ」

「僕は、魔王アシュレイ。この世界を滅ぼす者だ」


 僕は改めて魔王であるとシレーヌに名乗る。今度こそ、殺気を込めて本気で脅す。けれど、シレーヌはまるで何事もない様に会話を続けた。


「あなたアシュレイって言うのね。でも、何か変な感じがするわ。どうして女の子なのに男の子の名前なのかしら?」


 ハッとして自分の頭を触る。いつの間にか、深くかぶっていたフードが取れていたようだ。僕が女であることがバレるのは好ましくない。だって、魔王は必ず男なのだから。もしかしたら、シレーヌはそれを知っていて僕が魔王じゃ無いと思っているんだろうか。


「お前には関係ないだろう。殺されたくなければ、さっさと僕の前から居なくなれ」

「街に戻るのなら、一緒に行くわよ? 私の方がお姉さんでしょ?」

「僕は15歳だ」

「嘘っ!? 私よりも年上だったの? 私、13歳よ」

「背が低く、胸も小さくて悪かったな!」


 僕が女だとバレてしまったので、怒りに任せて怒鳴る。


「別に、悪いなんて言っていないじゃない。とりあえず、街へ行きましょう」

「行かないって言ってるだろ」

「初めて聞いたわよ。それなら、どこに行くの? もう、暗くなるわよ」

「だから、お前には関係ないだろ!」


 シレーヌと話していると調子が狂う。一体、どうすれば僕から離れてくれるのだろう。

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