第57話 世界は、広い

「おっ、来たかヴェルバー」


「………………」


「…………ヴェルバー?」


「あっ、すまん。ちょっと考え事をしてて」


考え事をしながらも、昼食後に伝えられていた訓練場に無事到着したヴェルバー。

イスカルが声を掛けるも、再度声を掛けられるまで気付かなかった。


「何を考えてたんだ」


「錬金術科のマルサ先生だ。同じ学科を受けた学生から過去に一人で竜殺しをした魔術師だって聞いて」


「あぁ~~~~、なるほどね」


「言っておきますけど、その話は事実ですわよ」


気になる話が聞こえ、魔力操作の訓練中だったイサルネとラフネも会話に参加。


「いや、俺も疑う気持ちはないんだけど……その、ドラゴンを実際に見たことはないけど、バカみたいに強いということだけは解ってる。だからこそ、どうやって魔術師が一人でドラゴンを倒すんだろうと思って」


「マルサさん……マルサ先生が有しているスキルは、単なる属性魔法スキルではありませんの」


既に出回っている情報であるため、語ってはならない内容ではない。


ただ、ヴェルバーたちからすれば驚きを隠せない内容であった。


「そ、それって……その、一つのスキルで、複数の属性を操れる、ってこと?」


「その通りですわ。勿論そのスキルに頼るだけではなく、魔力操作の腕も超一流……それでも、当時はあまり信じられなかったらしいですわ」


「……つまり、信じてなかった人たちが信じることになった事があったと」


「そうですわ。といっても、特に珍しいことではありませんのよ。単純に一人で多くのモンスターを仕留め続け、再度ドラゴンを一人で仕留めましたの」


「………………色々とツッコみたいところがあるんだが」


「ふふ、その気持ちは解りますわ」


イサルネも初めて話を聞いた時、ヴェルバーと同じ反応をしていた。


「えっと……魔術師って、基本的に一人で戦うものじゃない、よな?」


「間違ってませんわ。とはいっても、順当に成長することが出来れば、多くの魔術師が前衛がいなくとも一人で戦えるように研鑽を積むのよ」


「それは……そうなんだろうけど、だからってドラゴンを一人で倒せるようになるものなのか?」


ヴェルバーの言葉に、イサルネは特に躊躇うことなく首を横に振った。


「普通は無理ね。そういった戦いが出来る域に達した魔術師であっても、前衛がいなければ属性を持つドラゴンには勝てませんわ。けれど、マルサ先生は成し遂げましたの……それも一度や二度ではなく、何度もですのよ」


「………………」


似たような話をちゃんと聞いてはいたが、それでもヴェルバーは友人が何を言ってるのかちょっとよく解らなかった。


「あっはっは!!!!!! 解る解る、マジでそういう反応になるよな~。でも、俺一回だけ対人戦だけどマルサ先生が戦ってるのを見たけど、納得できるほど強かったぜ」


「……強いのはそうなんだろうけど、普通はドラゴンと戦うのなんて、恐ろしさが勝るんじゃないのか?」


「マルサ先生が他の魔術師と違うのはそこですわ。あの方は、強敵と戦う時……恐怖心というものがなさらないらしいの」


「………………強くなれば、なくなるものなのか? それとも、一応魔剣士や魔槍士の真似事が出来るとか……そういうことではなく?」


「そういう事ではなく、ですわ。ですが、マルサ先生の友人たち曰く、やろうと思えば出来るはずらしいですわ」


「なる、ほど……」


世界は広い。

前世の記憶を持つヴェルバーは、それをよ~~~~く知っていた。


二十歳になる前からインターネットが当たり前にあり、わざわざ現地に向かわなくても世界の広さを知ることが出来た。


だが、この世界の常識を徐々に理解、入れ込んでいく中で……あまりにもぶっ飛び過ぎな内容を知ってしまったヴェルバー。


その内容は、彼にとって世界は広いどころでは済まされないレベルの話だった。


「…………今でも、魔術師として戻ってほしいと思われてるんだよな」


「当然ですわ。現時点では、錬金術師としての腕よりも魔術師としての腕の方が上ですのよ。とはいえ、無理やり錬金術師として活動出来なくするよりも、いざという時に戦力になってくれる状態にしておいた方が良いという結論に至ったらしいですわ」


「マルサ先生が暴れたりすれば、それだけで結構死者出そうだもんな……それに、それならもういいやって別の国に行きそうだな」


「上の人たちはそこら辺を危惧したらしいぜ。ぶっちゃけ、マルサ先生は一般的な騎士が数十人集まっても敵わないって言われてるしな」


「……鍛錬と経験次第で魔術師でも一人で戦える、接近戦タイプと戦えるのは解ったけど、やっぱりおかしいな」


イスカル、イサルネの二人はヴェルバーの言葉を否定せず、ただ苦笑いを浮かべるだけだった。


「…………マルサ先生って人は、それだけ……ぶっ飛んでる、ってことだよね」


「? そうね。その認識で間違いないわ……どうしたの?」


「なんでもないよ」


「……そう」


残念ながら、ラフネと比べてイサルネは社交界という口と態度、雰囲気などを武器として激しい戦いが行われる戦場で生きてきた人間。


今回のなんでもないが、何かあるのを隠したなんでもないであることは丸解りだった。

ただ……だからといって、深く詮索するつもりはなかった。


何故なら、友人の表情から察するに、思い詰めている訳ではなかったから。


その後、ヴェルバーも加わって時間になるまで訓練や意見交換を行うのだった。

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