弔い侍

第一章 武士道と云ふは

スオウノシマの決闘! ツクモとヤコウ!!

【スオウノシマ】


 荒波が打ち付ける小さな無人島――スオウノシマ。

 ヒノモトの西端に位置するその島に静かに漕ぎ着ける一艘いっそうの小舟、またそこから島へと降り立つは一人の侍――名をツクモ。

 無精ひげをたくわえた精悍せいかんな顔つき、頬には十字の傷。

 赤い着物に白袴しろばかま、腰には二本差しという出で立ち。

 ツクモが船を降りていくらも歩かぬうちに、砂浜に立つもう一人の侍の姿があった。

 ツクモよりずいぶんと若年じゃくねんの侍――名をヤコウ。

 女とも見紛みまごう美しい顔立ちに自信に満ちあふれた笑みを張り付けている。

 服装はツクモとは対称的な青い着物に黒袴、腰には長刀が一振り。


 ヤコウはツクモの姿を確認すると、腰の長刀を抜き放ちさやを背後に投げ捨てる。


「待っていたぞ、ツクモ!」


 たった二人だけの無人島で、人知れず行われる決闘にもかかわらず、ヤコウは芝居しばいがかった口上を告げる。


「ようやく決着をつけるときがきたな。これまで九十九人の強者を斬ってきた貴様の勇名も、今日で御終いだ」


 対するツクモは不愛想に固く結んだ口を開こうとはしない。

 ただ黙って腰の刀を二振りとも抜く。ツクモは二刀流だった。

 ツクモの構えを見届けると、ヤコウは待ちかねたとばかりに飛び掛かった。


「この百騎ひゃっききのヤコウの剣から逃れる術なし!」


 自らの異名を声高に叫びながら得意の連続突きを繰り出すヤコウ。

 ゆうに三尺はあろう長刀を軽々と振り回す――華奢きゃしゃ体躯たいくからは想像もつかない怪力である。

 ツクモは二刀でもって巧みにその攻めをいなすも反撃の隙は見出せない。

 防戦一方のツクモを見てヤコウは上機嫌に哄笑こうしょうする。


「はっはっは! どうしたツクモ? 音に聞こえた烈火のごとき攻めとやらは見せてはくれんのか?」

「……お主には拙者の攻めを見せるまでもない」

「何だとっ! ふん、この技を受けてなお――そんな強がりが言えるかっ!?」


 ヤコウは長刀を天を突かんばかりに高々とかかげると一息に振り下ろした。

 間一髪でその一撃をかわすツクモ。

 その刹那せつな――ヤコウの長刀が地面すれすれから切り上げへと転じる。


「秘剣! 燕返し!!」


 まさに空高く舞い上がる燕のような剣閃。

 死角から襲い来るヤコウの長刀を、ツクモはまるで見えているかのように二刀で上から抑え込む。

 動揺のあまり一瞬の硬直におちいるヤコウ。

 ツクモはそのまま長刀の峰に滑らせる形で二刀をヤコウの懐まで潜り込ませ――この決闘はじめてとなる攻めを見せた。


「――十文字斬り」


 その名の通り十字に交差させた二刀をヤコウの胸元に刻みつける。

 血飛沫を上げ倒れ伏すヤコウ。

 そのおびただしい血の量を見れば、素人目にも彼がもう助からないことは明らかだった。

 ヤコウは最後の力を振り絞って顔を起こす。


「なぜだ……なぜ見てもいないのに俺の剣を防ぎ、俺の急所を狙えた……?」

「お主の技量はまことに見事。まさに流水の如き、一切の無駄がない完璧な太刀筋。だがそれ故にその動きは手に取るように分かった。それだけのこと」


 ツクモは手慣れた手つきで刀についた血をぬぐい鞘へと納める。


「バ……バカな……このヤコウが敗れるとは……おのれツクモ……この恨み……決して忘れん……ぞ」

 

 そんなヤコウの今際の言葉に、まるで興味を示さぬまま。

 百人斬りの偉業をなした侍はスオウノシマを後にした。

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