第53話「石の声と紋様の響き」

第53話「石の声と紋様の響き」



朝、リシアが目を覚ますと、ハルはすでに起きていた。


彼は小屋の前に腰掛け、朝日を浴びながら、

持参した石を丁寧に磨き上げている。


「おはよう、リシアさん。よく眠れましたか?」


「おはようございます、ハルさん。ええ、おかげさまで。

なんだか、とても清々しい朝です」


ハルは微笑み、磨き終えた石をリシアに見せた。


表面には、繊細な祈りの紋様が光を反射して輝いている。


「これは“清浄”の紋様です。

身につけることで、邪気を払い、

精神を安定させる効果があります」


リシアは興味深そうに石を覗き込む。


「綺麗……。

私も、いつかこんな風に石を彫れるようになりたいな」


「すぐに慣れますよ。

石は、あなたの祈りを待っていますから」


キルアが、小屋から出てきた。


「朝食の準備はできてる。

ハルさんも一緒にどうだ?」


ハルは快く頷いた。


焚き火を囲み、3人で簡単な朝食を摂る。


ハルの加わったことで、いつもの食卓に、

どこか新しい風が吹いた気がした。


「今日は、何をしましょうか?

ハルさんの石細工を見学させてもらうのもいいですし……」


リシアがそう言うと、ハルは少し考えてから言った。


「せっかくですから、村の周囲にある“石”を探しに行きませんか?

良質な石は、良い祈りを宿す。

この村にふさわしい石を、共に選びたいのです」


キルアも賛成した。


「それなら、以前から気になっていた場所がある。

東の谷にある、古い石切り場だ。

今はもう使われていないが、何か見つかるかもしれない」


こうして、3人は村の周囲を探索することになった。



ハルは、石細工師としての知識を惜しみなく教えてくれた。


石の種類、硬度、含まれる鉱物の違い……リシアは、

これまで何気なく見ていた石ころにも、

様々な物語が秘められていることを知った。



やがて、3人は東の谷に到着した。



そこは、切り立った岩肌がむき出しになった、荒涼とした場所だった。

かつて石を切り出していたであろう場所には、巨大な石の残骸がゴロゴロと転がっている。


「……すごい。こんなに大きな石が、たくさん」


リシアが圧倒されていると、ハルが嬉しそうに言った。


「ここは、まさに“石の宝庫”ですね。

時間をかけて、じっくりと探してみましょう」


3人は手分けして、石を探し始めた。


キルアは、周囲の警戒を怠らない。


ハルは、石の表面を丁寧に撫で、

祈りの紋様を刻むのに適した石を探している。


リシアは、二人の邪魔にならないように、小さな石を拾い集めていた。




ふと、足元に転がる石に目が留まった。


ごつごつとした、何の変哲もない石。


けれど、手に取った瞬間、かすかに“震え”を感じた。


>【微弱な信仰残滓を検出】

>【対象:未登録石材】

>【触媒適合率:低】


「……あれ?」


リシアは不思議に思い、その石をじっと見つめた。


表面には、風雨に晒された跡。

所々、苔むして、ひび割れも目立つ。


それでも、確かに“何か”が宿っている。


「ハルさん、キルアさん。ちょっと、これ……」


二人に声をかけ、石を見せる。


ハルは、石を受け取ると、目を輝かせた。


「これは……! 古代石!?」


「古代石……ですか?」


キルアが眉をひそめる。


ハルは興奮した様子で、石を詳しく調べ始めた。


「間違いない。この石質、紋様の痕跡……。

これは、失われた古代文明の石材です!

祈りの増幅効果が、現代の石とは比べ物にならないほど高いはず」


「そんなすごいものが、こんなところに……」


「長年の風化で、力はほとんど失われているようですが……。

それでも、素材としては最高級品です」


ハルは、石を丁寧に抱きしめた。


「リシアさん、よくぞこの石を見つけてくださいました!

これは、この村にとって、大きな宝になります!」


キルアは、少し疑わしげな目を向けた。


「そんなに価値があるものなのか?

ただの古い石ころにしか見えないが……」


ハルは、キルアに向き直り、熱心に語り始めた。


「キルアさん、石は単なる物質ではありません。

祈りを宿し、力を増幅させる、神聖な媒体なのです。

特に、古代石は、その力が桁違い。

適切に加工すれば、この村全体を護る“守護石”にもなりえます!」


リシアは、ハルの言葉に胸を躍らせた。


「守護石……! それって、村の安全を守ってくれるんですか?」


「ええ。祈りの紋様を刻み、適切な場所に配置すれば、

魔獣や邪悪な存在を寄せ付けない、強力な結界を張ることが可能です」


キルアは腕を組み、考え込んだ。


「結界、か……。

それがあれば、俺も安心して留守にできるな。

実は最近、森の奥で奇妙な気配を感じている。

少し、様子を見てこようと思っているんだ」


リシアは心配そうに眉をひそめた。


「危ないんじゃない?

一人で行くなんて……」


キルアは、リシアの頭を優しく撫でた。


「大丈夫だ。お前を、この村を護るためだ。

それに、無茶はしないさ。

何かあれば、すぐに戻ってくる」


リシアは、キルアの真剣な眼差しに、頷くしかなかった。


「……分かった。でも、絶対に無理はしないでね?」


「ああ、約束する」


ハルが、二人のやり取りを静かに見守っていた。


そして、キルアに声をかけた。


「キルアさん。もしよろしければ、

この石を護符としてお持ちください。

微力ながら、あなたを邪気から守ってくれるはずです」


ハルは、今朝がたに磨き上げていた“清浄”の紋様の石を、キルアに手渡した。


キルアは、感謝の言葉を述べ、石を受け取った。


「ありがとう、ハルさん。

この力、無駄にはしない」


石を採取し終えた一行は集落へと戻り、

古代石を使った“守護石”の作成に取り掛かることにした。


まずは、石を清め、祈りを込める儀式から始める。


ハルは、リシアに祈りの言葉を教え、

古代の紋様の意味を丁寧に説明した。


リシアは、ハルの指導を受けながら、

石に祈りを込めていく。


その祈りは、静かで、力強く、

そして、何よりも優しかった。


やがて、古代石は、リシアの祈りを受け、

かすかに輝き始めた。


その光は、暗い森の中でも、

希望の灯火のように、静かに、けれど確かに、輝いていた。


(第54話へつづく)

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