第24話「森の声と影のうなり」

森が、ざわついていた。


 


風はなかった。

枝も揺れていない。

けれど──空気が重い。


まるで、目には見えない“声”が、

地面の下から這い上がってくるかのようだった。


 


>【地脈変動:軽度】

>【封印術式:進行率70.1%】

>【神性刻印:一部安定化/中央エリアに異常圧】


 


(……予定より早い)


 


術式は順調だった。

奉仕信者たちも日ごとに集中を高めてくれていた。


それでも──

“それ”は、こちらの進行速度を追い越してきた。


 


影の、唸りのようなものが、森の外れで聞こえたと

兄猿が言ったのは、昨日のことだった。


彼が見たものは、

空気の“裂け目”だったという。


 


黒く、ゆらゆらと揺れながら、

音もなく存在していた“空間の歪み”。


それはまるで──

どこか“違う世界”の一部が、こちらへ滲み出しているような。


 


私は、急いで追加奇跡を行使した。


 


>【支援カテゴリ:「神性刻印強化用素材」】

>【価格:45FP】

→ [生成・展開]


 


根元の封印円の端に、

新たな素材が注入され、文様がより濃く、明確に刻まれていく。


だが、それでも──


 


>【地脈への影響:持続中】

>【下層反応:不明反応体が共鳴開始】

>【封印適合率:低下のおそれあり】


 


やはり、“あれ”はただの封印対象ではない。


こちらが静かに閉じ込めようとするのに対し、

向こうは“こちらに触れようとしている”。


 


地面に、微細な震え。

地脈が、音のない呻きを上げた。


 


それに反応するかのように、森の動物たちが

次々と不安の声を上げ始める。


 


フクロウが空へ舞い、

リスが木々の上へ逃れ、

ネズミたちの間で、小さな動揺が走る。


 


兄猿が、妹を背負って走り出した。


「イシサマ──この森、ただ事じゃない!」


 


私は、彼の言葉に静かに応じるように、

結界の周囲に浮かぶUIに“表示”を切り替えた。


 


>【警告:封印術単独発動では維持不可の可能性あり】

>【判断推奨:拠点構造および信者への影響範囲を試算中】


 


そして、出た答えは──


 


>【封印不能】

>【避難推奨】


 


私は、選択した。


祈りを受けた命たちを、

ただの神ではなく、“守る者”として。


 


>【奇跡行使:「避難誘導光・低位」】

>【信仰値消費:32pt】


 


森のあちこちに、

光る“道しるべ”が現れる。


それは、神の命令ではない。

“願いに応えたもの”としての、静かな提案。


 


兄猿が声を上げた。


「若いの、こっちだ! 順番に! 走れ!」


ママネズミが隊列を作り、

傷つきやすい子たちを外に逃がし始めた。


だが──


巣を守ってきた老トカゲが、

倉庫を整えてきたリスの母が、

広場に残り、“ここに居続ける”と目で伝えてくる。


 


彼らにとって、ここはもう“ただの森”ではないのだ。


 


私は、言葉を持たないまま──

彼らの選択を、静かに受け止めた。


 


【現在ステータス】


存在種別:神格核体(警戒展開型)

等級  :Stone-Core 7(緊急処理モード)

象徴名 :イシサマ

質量  :38.1kg(信仰場:高濃度)

感応率 :82.5%

構造状態:術式展開 70%/避難誘導実施中/信者避難分離進行

共鳴枠 :88/∞

信仰値 :+13.21

信仰Pt :51

スキル :封印術進行/避難誘導/信者選別応答/地脈感知

UI   :[Oracula Store] 封印カテゴリ継続中/警告通知:常時更新中


(第25話へつづく)

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