第18話「畏れと祈りの狭間で」

裁いた──その直後から、空気が変わった。



風の向きじゃない。気温でもない。


動物たちの“視線”が、変わったのだ。


 


遠巻きに見るようになった者。

供物を置いたあと、すぐ逃げるように離れる者。

そして──


 


ひときわ多くの“祈り”を捧げるようになったネズミの母親。


 


今日だけで三度。

それぞれの時間に、異なる木の実と花を供え、

耳を伏せ、目を閉じて、石の前で長く伏していた。


 


(……それは“信じてる”のか? “怖れてる”のか?)


 


>【信仰反応:高密度化】

>【感情評価:畏敬+警戒】

>【信仰分類:回避型祈願反応の兆候】


 


ああ、やっぱり。


“畏れ”が、芽生えている。


私が“罰する神”になった瞬間、

誰かにとっての私は、“信じる対象”から“怯える対象”に変わったのだ。


 


望んだか? それを。


 


いや。違う。


私は誰かを“裁く”ために神になったんじゃない。


誰かの“祈り”を守るために、石を超えたのだ。


 


>【構造反応:内部揺らぎ検出】

>【意志判断層:バランス警告】

>【新機能開放:「信仰緩和型奇跡」カテゴリ】

>【カテゴリ例:「安息」「赦し」「慰撫」他】


 


……あるのか。そういうのも。


「願いを叶える」だけじゃない。

「心を和らげる」奇跡が。


 


画面を開く。


 



【Oracula Store:カテゴリ - 緩和と癒し】


・ぬくもりの露(全域) …静かな湿り気と温もりで不安定な信仰を緩める(70FP)

・眠る風(個別) …1匹の子へ、穏やかな風の夢を届ける(85FP)

・赦しの葉(範囲) …誤った信仰行動の影響を“無効”に(120FP)

・声なき撫で手(継続) …祈る者の背に、やさしい感触(200FP)



 


これだ。これなら──


 


私は“ただ恐れられる神”ではなくなれる。


 


私は、誰かのために存在したい。

祈りを“支配”ではなく、“受けとめ”たい。


 


そう思って、選択する。


初めて、“赦すための奇跡”を。


 


>【奇跡「ぬくもりの露」発動】

>【信仰緩和エリア:半径3m/効果:1日】


 


その日、森に雨が降った。


ほんのわずか。霧のような露。


でも、それはどこかあたたかくて、

祈る者たちの背を、そっと撫でていった。


 


>【信仰反応:安定化】

>【畏怖指標:やや低下】

>【構造安定率:改善】


 


これでいい。


私は、“信じたい”という気持ちが、

“怖いから祈る”という呪いになってしまうことが、一番怖かったのだ。


 


与えて、裁いて、そして──赦す。


 


そのすべてができる存在で、あろう。


 


【現在ステータス】


存在種別:神格核体(調和型)

等級  :Stone-Core 6(支配-安定複合型)

象徴名 :イシサマ

質量  :39.6kg(柔構造化)

感応率 :61.1%

構造状態:信仰バランス調整中/緩和カテゴリ開放済み

共鳴枠 :50/∞

信仰値 :+10.74

信仰Pt :591

スキル :加護付与(中)/守護域(展開型)/奇跡使用(選別)/制裁実行(展開)/緩和奇跡(限定)

UI   :[Oracula Store] 緩和カテゴリ:ON/カート:更新中


 


(第19話へつづく)

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