第13話 負うものと負われるもの

 玉座の間に、再び静けさが満ちる。


 魔王は漆黒のローブを揺らしながら、ゆっくりと玉座を降り、レオンたちのほうへ数歩近づいた。表情は読みづらく、だがその瞳には明らかに興味の色が浮かんでいた。


「勇者よ。お前に問う。この城に訪れた目的は何だ?」


 その声は威圧というより、審判を下すような重みを帯びていた。


「四天王の三人を味方につけた……となれば、さすがに私を討って名を上げる、という陳腐な目的ではないのだろう?」


 視線を真っ直ぐ受けながら、レオンは迷いなく答えた。


「ああ、そうだ。俺の目的は、“魔王を討つこと”じゃない。むしろ、魔王である君に……力を貸してほしい。」


 一瞬、玉座の間に冷たい風が通り抜けたかのような錯覚すら覚える。


「俺は……魔王を仲間に加え、故郷を……いや、この世界に仇なす暴君“ベルツ”を討ち果たすためにここまで来たんだ。」


 その名を聞いた瞬間、魔王の目がわずかに細められた。背後の空気がぐっと重くなる。


「ベルツ……。その名を、今ここで聞くとはな。」


 一拍の沈黙の後、魔王は笑みを漏らした。


「ふっ……魔王を味方に?面白い発想だ。だが、ならば問おう。」


 彼の声が、静かに、しかし鋭く響く。


「ベルツを討った後、お前はどうする? 世界を一度救ったところで、“それだけ”で終われるはずがあるまい。人は英雄に担ぎ上げられ、次には“王”としての責務を背負うことになる。」


 その言葉は、淡々としているのに、レオンの胸に鋭く突き刺さる。


「お前にはその覚悟があるのか? 権力を持ち、人々を導き、時に裁く──それが“王”の責務だ。」


 レオンは言葉を返せなかった。自分が歩んできた旅、信念、そして戦う理由──そのすべてが、今その問いの前に揺らいでいた。


 俯き、黙り込むレオンの横で、ゴーンが肩をすくめてぼやく。


「いやいや、覚悟できてねえのかよ……お前、そんなんでよくここまで来れたな?」


 その言い方に棘はなく、むしろどこか呆れと心配の入り混じった兄貴分のようだった。


 アゼルも静かに頷き、言葉を重ねる。


「たしかに、あんな者でも“王”だ。討てば、それに代わる存在が必要になる。……国は、“その先”を必要とするものだ。」


 鋭い現実を突きつけられ、レオンの手は拳を握りしめていた。


 だが──


「レオン。」


 優しい声が、沈黙を破る。


 リリスがそっと歩み寄り、レオンの肩に手を置いた。


「あなたは一人じゃない。私たちがいる。重すぎるって思っても、あなた一人で全部背負う必要なんてないのよ?」


 彼女は微笑み、レオンの瞳を見つめる。


「覚悟っていうのは、初めから持ってるものじゃない。少しずつ、踏み出していく中で形になっていくの。……それに、もしかしたら魔王さんも、サポートしてくれるかもしれないわよ?」


 最後の言葉に、魔王は面白げに眉をひそめた。


 レオンはなおも黙ったままだったが、胸の内では嵐のように思考が渦巻いていた。


 ──本当に、自分が王になっていいのか?


 ──自分には何ができる?何を背負うべきなのか?


 仲間たちの声が、レオンの心を揺さぶる。そしてその沈黙は、確かな“答え”を探すための時間となっていた。

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