第33話 遺跡の入り口、T国の罠

地底竜を倒し、洞窟の奥へと進んだ攻略隊の目の前に現れたのは、巨大な石造りの扉だった。

その扉には、見たこともない複雑な紋様がびっしりと刻まれており、明らかに人工的な建造物であることを示していた。


「ここが…古代遺跡の入り口…!?」


誰かが、ごくりと喉を鳴らす。長かった道程の、ようやく最初の目的地に辿り着いたのだ。

プレイヤーたちの間に、緊張と期待が入り混じった空気が流れる。


「よし、扉を開けるぞ! 全員、警戒を怠るな!」


ジニーの号令で、数人の屈強な戦士たちが石の扉に手をかけ、力を込めて押し開けようとする。

しかし、扉はびくともしない。


「くそっ、重すぎる! 全然動かねぇ!」

「何か仕掛けがあるのか…?」


プレイヤーたちが途方に暮れていると、颯太が静かに扉に近づき、その表面に刻まれた紋様を注意深く観察し始めた。


(この紋様…どこかで見たことがあるような…そうだ、デバッグモードでアクセスできる、ゲームの初期設定資料の中に、似たようなデザインがあったはずだ…確か、これは特定の順番で紋様に触れることで解錠される、一種のパズルロックだったはず…)


颯太は、記憶の底から情報を引き出し、正しい解錠手順を特定する。

そして、他のプレイヤーには気づかれないよう、さりげなくいくつかの紋様に触れていく。


カチリ…ゴゴゴゴゴ…


すると、重々しい音と共に、巨大な石の扉がゆっくりと開き始めた。


「おおっ! 開いたぞ!」

「ルーカスさんが何かしたのか…?」


プレイヤーたちから驚きと賞賛の声が上がる。

颯太は、「たまたま触った場所が良かったみたいですね」と曖昧に笑って誤魔化すが、リィラやジニーは、彼の行動に何か特別な意味があることを見抜いているようだった。


扉の奥には、広大な地下空間が広がっていた。

そこは、明らかに人の手によって作られた、神殿のような場所だった。

壁にはフレスコ画のようなものが描かれ、中央には巨大な祭壇らしきものも見える。

しかし、同時に、そこには不気味な静寂と、濃密な「何か」の気配が満ちていた。


「ここが…古代遺跡の内部か…」


プレイヤーたちは、息を呑んでその光景を見つめる。


「慎重に進みましょう。何が潜んでいるかわかりません」


ジニーが注意を促し、攻略隊は遺跡内部へと足を踏み入れた。


遺跡内部は、まるで巨大な迷宮のようだった。

無数の通路が複雑に入り組み、同じような景色が続くため、方向感覚を失いやすい。

そして、そこには、これまでのモンスターとは比較にならないほど強力な、遺跡の守護者たちが待ち受けていた。

石造りのゴーレム、古代の呪術を使うアンデッド、そして、影に潜んで奇襲を仕掛けてくる謎のクリーチャー…。


攻略隊は、何度も死線を彷徨いながら、それでも一歩ずつ奥へと進んでいく。

颯太は、デバッガーとしての知識と能力を最大限に活用し、隠された通路や罠を発見し、敵の弱点を見抜いて仲間を導いた。

彼の存在は、攻略隊にとって、まさに生命線となっていた。


しかし、遺跡の奥に進むにつれて、颯太は奇妙な違和感を覚え始めていた。


(この遺跡の構造…デバッグ資料で見たものと、微妙に違う箇所があるな…それに、このモンスターの配置やAIの挙動…どこか不自然だ。まるで、誰かが意図的に手を加えたような…)


そして、その違和感は、ある広間に出た時に確信へと変わった。

広間の中央には、本来そこにあるはずのない、巨大なクリスタルが設置されていたのだ。

そのクリスタルは、禍々しい紫色の光を放ち、周囲の空間を歪ませている。


「なんだ、あれは…!?」


プレイヤーたちがクリスタルに気を取られた瞬間、広間の四方から、無数の罠が作動した!

床から槍が飛び出し、壁から毒矢が放たれ、天井からは巨大な岩が落下してくる!


「うわあああっ!」

「罠だ! 回避しろ!」


突然の事態に、攻略隊は混乱に陥る。多くのプレイヤーが罠にかかり、負傷していく。


「くそっ! こんな罠、聞いてないぞ!」

「落ち着け! 防御魔法を展開しろ!」


颯太は、即座に防御魔法を展開し、仲間たちを守りながら、冷静に状況を分析する。


(この罠の配置…巧妙すぎる。そして、あのクリスタル…あれが、この異常事態を引き起こしている元凶に違いない! T国が仕掛けた、特殊なバグ誘発装置か…!?)


颯太の予測通り、あのクリスタルこそが、T国が遺跡内部に仕掛けた罠だった。

それは、周囲のシステムデータを強制的に書き換え、バグを誘発し、モンスターを異常強化したり、プレイヤーに不利な状況を作り出したりする、悪質なプログラムだったのだ。


「ジニーさん! あの紫のクリスタルを破壊してください! あれが罠の元凶です!」


颯太は、ジニーに叫ぶ。ジニーも、即座に状況を理解し、指示を出す。


「全員、あのクリスタルを集中攻撃! 何としても破壊するのよ!」


プレイヤーたちは、降り注ぐ罠を避けながら、必死にクリスタルへと攻撃を集中する。

しかし、クリスタルは強力な魔法障壁に守られており、なかなか破壊できない。


その時、広間の入り口を塞ぐように、多数のプレイヤーが現れた。

それは、アンジェロ率いるjusticeのメンバーたちだった!


「ふふふ…ようこそ、諸君。我々の用意した歓迎の宴へ」


アンジェロが、嘲るような笑みを浮かべて言った。


「アンジェロ! やはり貴様らの仕業か!」


ジニーが怒りの声を上げる。


「いかにも。この遺跡は、君たちの墓場となるのさ。そして、あのルーカス…お前だけは、生け捕りにして、T国へのお土産にしてやろう」


アンジェロの言葉と共に、justiceのメンバーが一斉に攻略隊へと襲いかかってきた!


前方には罠とバグに満ちた広間、後方からはjusticeの襲撃。

攻略隊は、絶体絶命のピンチに陥った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る