第2話 1.1 召喚【ミッドガルズ : オーズの暴走、漂う闇】
「では次! オーズ君。力場前へ。」
石造りの建物に
長めの茶色いウェーブがかった髪をした、青年ほどの歳頃の男、ラウムだ。
エウローン帝国学園で教師をしている。
生徒と
呼ばれた生徒は、オーズ・ノート・ヘルグリンド。
ノート家の嫡男である。
「俺様の番か!」
意気揚々とした様子で、肩をいからせながら、ずいと人垣を押し退けるオーズ。
端的に表わせば、"偉そう"な態度である。
だが、彼にしてみれば、その行動に何の迷いもない。
オーズは、エウローン帝国傘下、ヘルグリンド王国の王族に連なる、ノート家という地位の高い家柄だ。
その地位に溺れているのか、粗暴でいて横柄であり、さらに歪んだ性格をしていた。
艶のある黒髪に、切れ長の紅い瞳で、長い手脚に長身、スラリとした体型。
と、容姿だけは非常に整っているのだが――
周囲には密かに『
オーズはそれが許せない。
「クソ共が……見てやがれ」
オーズは、ずかずかと歩きながら、心中に負の感情を募らせていた。
とにかく周囲の連中に思い知らせてやりたいのだ。
「俺様の凄さを見せつけてやるぜ……!」
オーズは、力場と呼ばれる円の前へと歩み出た。
今は、召喚術の授業中である。
力場に働きかけ、この世界の何処か……または別世界の何処かから、大いなる力を持った"召喚獣"と称される存在を呼び寄せ、使役する。
それが召喚術だ。
今日の召喚で、より強力な召喚獣を得て、己が力を見せつける腹積もりなのだ。
「オーズ様ならすんごいの
オーズにも、その地位に相応しく、子分や取り巻きのような者は居る。
軽口を叩いて太鼓持ちをするのは、オーネスだ。
名前が少し似ているというのをネタに、上手いこと取り入ったのだ。
「うるせぇよ。黙って見とけ。」
こういうのが格好良いと思うお年頃なのか、もはやそういう人間なのか。
他の生徒達は、寒々しい視線を向けている。
だが、オーネスは将来的な甘い蜜を諦めるつもりは更々無い。
「すんませーん! オーズ様の勇姿、黙ってしっかり目に焼き付けまっす!」
軽薄な笑顔を貼り付けたまま、大仰な身振りで、オーネスは礼を取った。
力場は、光の粒が揺らめき、淡く輝いている。
オーズは、目を閉じた。
内なる力を解放すべく、身中に集中する。
やがて身体から湯気のように、何かが湧きたった。
黒い粒だった。
(クソ共が! 俺様の力を見せてやるぜ!)
「はあぁぁぁー!!!!」
オーズの身体から湧き出る黒い粒は、気合いを込めると、稲妻のように
「俺様の……! 声に……! 力に……! 応えろおぉぉおぉ!!!!」
オーズの発した黒い稲妻は、力場の光に吸い込まれるようにして、力場の中心へと集まっていく。
次第に大きくなるそれは、球状に変化した。
「うおおおおぉ!!!!」
更に力を込めるオーズ。
血管も浮き出て、必死の形相だ。
力場中央の黒球は、圧縮されるように小さく小さくなっていった。
やがて、小指の先ほどより小さくなったかという瞬間。
ボンッという破裂音が響いた。
「む、なんだあれは」
力場の中央には、黒い霧のようなものがある。
黒球が破裂し、拡散したのだろうか。
だが、それならば留まっている事がおかしい。
自身の知識では計り知れない現象に、怪訝な表情を浮かべるラウム。
対してオーネスは、
「さっすがオーズ様! 成功っすね!」
と、喜びを表している。
他の生徒達は、
「何あれ……」 「見た事ない……」 「え、なんか怖……」
と、口々に嫌悪感や恐怖を漏らした。
戦々恐々とした様子だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……。よし、来たか……」
オーズは肩で息をしながらも、力場に現れたものを、しっかりと見ている。
それは、ただの黒い霧ではなかった。
書物でも、伝え聞いた話にもない、人型に見える黒い霧だ。
明らかに謎の存在ではあるが、それも自分らしいと思った。
見た目には不気味さも相まって、強そうなのだ。
概ね満足といえた。
後はこの謎の存在を
「貴様は、なんだ? どんな力を持つ? ……まぁ、俺様に従える事は幸せだと思うことだな!!!!」
息を整えながらも、自信に満ち溢れていたオーズ。
彼は16年という人生で、最高潮の気分だった。
今まで見てきた生徒達の召喚獣は、ちんけな雑魚だった。
目の前の存在に比べれば、教師が喚んだ召喚獣すら雑魚だ。
自分が喚んだ召喚獣からは、空気が震えるような圧力すら感じる。
他の奴らとは比べ物にならないのだ!
遂に報われる時が来たのだ! と。
だが、そんな自信はすぐに打ち砕かれる事になる。
「跪け! 平伏せッ! 火槍!」
オーズの前に構えた手から、細長い炎が飛び出し、黒い霧を襲った。
が……
「な、なに?!」
炎は、黒い霧に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「……ア……アァ……ワタ……シ……イ……ヤ……オレ……ハ……」
炎を全く意に介さない様子だった黒い霧が、声を発した。
それに驚愕したのは、ラウムだ。
「喋っただと?! これは……相当に強大な存在だぞ……。
まずいな……。オーズ君! 気をつけるんだ! 無理をするな! 送還するべきかもしれんぞ!」
ラウムの知識としては、はっきりと話す召喚獣は強力過ぎて危険だという認識だ。
往々にして、人の手に負えるものではないのだ。
自身が喚べる召喚獣も、会話による意思疎通は出来ない。
こんなものを調伏など出来るのだろうか。
不安が募る。
だが、オーズはそんな忠告を聞き入れるつもりはないのだ。
「うるせぇよ! 送還なんかするか! 見てやがれ!」
火槍が効かなかった事で、一瞬怯んだオーズだったが、気を取り直したのか、その顔がにやりと不敵に歪んだ。
「炎が効かねぇんならよ……」
オーズは腰に提げていた剣を抜き払った。
「こいつはどうだァアア!!!!」
黒い霧に一足飛び。
勢い良く肩口へ斬りつけるオーズ。
その剣は力を帯びて、輝いていた。
ブォンッ! という派手な風切り音。
黒い霧は、確かに目の前に居る。少しも動いてはいない。
斬りつけたはずの剣。手応えはない。
ただ虚しくすり抜けただけだった。
「は……? な……な……」
動揺を隠し切れないオーズ。
震えがくる身体。
「う……うああああああああ!!」
叫んだ。
そして、やたらめったら、無茶苦茶に、無我夢中で剣を振り回した。
それはもう――剣術などというものではなかった。
「オーズ君! 止めるんだ! 他の生徒たちは逃げろ!」
ラウムの声が響くが、オーズには届かない。
「あああ……くそ……クソっ……なんで……なんでだ!!!!」
引き攣った形相で、必死に震えに抗いながら、剣をぶんぶんと振り回し続けている。
生徒たちは、我先にと出口に向かい走り出した。
「……ウ……ア……メッ……メッ……」
黒い霧は、
「ああああああああぁぁぁ!!!!」
オーズはもうパニックを起こしていた。
叫びながらただただ剣を振り回す。
「ちょ……オーズ様?! やばくないっすか?!」
腰が引けたまま、かなり遠くからオーネスが声を掛けるが、届くはずもなかった。
オーネスは、将来の甘い蜜を期待をしていたが、それだけでもあった。
反応すらしないオーズを置いて、避難する事を選んだようだ。
「オーズ様も早く逃げた方がいいっすよ!」
その言葉を最後に、オーネスは部屋を飛び出した。
「メッ……サ……」
呻くだけだった黒い霧が、何かを呟き、突如動いた。
その動きは、ゆっくりだったのか、速かったのか、分からない。
いつの間にかオーズは、黒い霧に呑み込まれるように包み込まれていた。
「ま、不味い……! 光弾!!」
ラウムが光の弾を放つも、黒い霧に触れた瞬間、飲み込まれるように、光は消えた。
……部屋の中には、もう黒い霧とラウムしか居ない。
ラウムは、思案する。
この謎の召喚獣は何なのか。
何故炎や光などの力が効かないのか。
それがこの存在の能力なのだろうか。
だとすれば、剣も効かない以上、打つ手が無いのではないか……。
ラウムは、絶望感を覚えた。
「う……あ……」
再び黒い霧が呻く。
人型の手に見える部分で、頭らしき所を押さえて、左右に振っている。
それは、人間らしい仕種だった。
(ん……? ここは……?)
黒い霧は、顔らしきものを上げ左右を見回した。
(……ああ、そうか)
黒い霧は、理解した。
自身が、
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